2666

  • 白水社 (2012年9月26日発売)
4.12
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本棚登録 : 856
感想 : 46
4

原著は2004年に作者死後出版され、当時はボラーニョ(2003年50歳で死去)なんて名前知らなかった。
邦訳が2012年に出版されたときにSNSで祭りのようになって、手に入れながら積読にしていたのを10年越しに、一週間読書くらいしかできることがないのを好機を見做して、読んでみた。
鈍器並みの分厚さにも、読了は大変という口コミにも、圧倒されていたが、実際に読み始めてみたら意外とサクサク読み進められた。
難関と言われている「犯罪の部」も、てんでバラバラに記述されているわけでは決してなく、数名の軸となる人物が設定されているので、読みやすかった(時間さえあれば)。
夢野久作「ドグラ・マグラ」の「キチガイ地獄外道祭文」も難所難所と言われる割には結構読みやすいのと同じく、一度リズムに乗れば大丈夫。

wikipediaの概要とあらすじ、
藤ふくろう氏による ロベルト・ボラーニョ『2666』wiki という scrapbox、
https://scrapbox.io/RobertBolano2666/
同じくscrapbox の robertobolano2666、
https://scrapbox.io/robertobolano2666/
を事前に用意して、つまずいたら調べられるように構えていたが、その必要まったくなく。
一気読みするぶんにはむしろリーダビリティの高い小説だと感じた(時間さえあれば)。
以下箇条書きで。

・「批評家たちの部」は謎の作家アルチンボルディの批評家に見せられた人々を描くが、フランソワ・トリュフォーの「突然炎のごとく」(ジュールとジム)を思い出した。男性3人対女性1人(リズ・ノートン)のサークルクラッシャー。
・文化人ってややこしいなー。3Pセックスをする男性ふたり(ペルチエ、エスピノーサ)は、なんか読んでいて厭だなー。
・オクテの車椅子(モリーニ)とだけわかりあえたきっかけが、腕を切り落とした画家について、という点は、少し興味深い。好きで繋がった数名の中でも、さらに異なる好きで共鳴するあたり、サブカル界隈を思い出さざるをえない。
・「アマルフィターノの部」は、ロラの奔放さが、いい。突き抜けていて好きになる。
・頭がおかしくなる過程で、本を洗濯バサミで……(マルセル・デュシャンのレディメイド)、というのも映像的で印象深い。
・「フェイトの部」は、ジョーダン・ピールっぽいな、とイメージしていたら、作中で「スパイク・リーのクソ野郎」とか書かれていて、笑う。急遽穴埋めで入ったボクシング取材をを離れて、街の不穏さに気づくあたり、デヴィッド・リンチ「ツイン・ピークス」っぽいなと感じ始めていたら……。
・「犯罪の部」は、もとに「ツイン・ピークス」の、しかもつるべ撃ち! ときた。
・ここで振り返るに、1部から3部までは遠くからサンタテレサという街に向かうというベクトルが別個に描かれた上で、4部でサンタテレサに入り込んでみたら、世界で最も治安が悪い街に叩き込まれてしまった……と圧倒されてしまう。みながサンタテレサへ集まってくる構成はなんだか「ドラクエ4」っぽいなと思いきや、1から3章までの人物たちは特に取り上げられることなく、ただ淡々と事件を記述していく。ここにおいて例えば友成純一や平山夢明のように女性殺害の場面を描写、せず、乾いた事後報告を積み上げていく点に、作者の美意識を感じたりも、した。
・これまでは空間的に遠くからサンタテレサへ向かっていたが、最終部「アルチンボルディの部」では、時間的にも空間的にも遠い第2次世界大戦前夜から話が始まる。皆川博子の重厚さと、挿話羅列の圧倒性を感じた。【ネタバレ注意】少年期に身分差のあった友人フーゴ・ハルダーを経て、そのイトコのフォン・ツンペ男爵令嬢こそが、後にブービス夫人として現れるところとか、皆川博子っぽい。ここにおいて「批評家たちの部」と円環をなしてゴツい本を読んできたカタルシスが生まれる。また、「犯罪の部」で逮捕されたクラウス・ハースは、本名ハンス・ライター筆名アルチンボルディの、妹ロッテの子供、という件も、ぞわっと。あーアルチンボルディがサンタテレサに来た理由ってこれなんだな、彼を追って批評家たちも来たんだな、とカタルシスを得て読み終えたが。

・が、以上のようにまとめることができた事柄が、果たして作者が書きたかったことかといえば、全然違うと思う。
・むしろ場所も人物も時代も社会背景も描いた上で、描かなかった空白部を浮き上がらせることが、作者の意図なのだろうと思う。そこはわかる。
・バキュームされた後の真空のように、ブラックホールのように、言及しなかった物事……暴力の実相とか、人類が残した大量殺戮の痕跡とか……がぽっかりと浮かび上がるような書き方をしているのではないか。
・ゲルハルト・リヒターの「ビルケナウ」も連想。指示や直喩や隠喩ではなく「換喩」として暴力を描くと、書かないことで書く、隠すことで露にする、ような表現になるのかと思う。
・だが、個人的にはそこまで熱狂できる小説では、なかった。残念。よかった! 楽しかった! とまったく言えず、むしろ読むことでエグられた自分の身体部分がまだどこなのかよく判らない呆然とした感じ、だけが残っている。面白かったと一言で片づけることはできない、かといって自分の人生の重要な部分になるだろうと胸張っていえるほどの理解もできてない、なんだか草臥れた、厄介な読書経験になった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学 海外 /南米
感想投稿日 : 2022年10月18日
読了日 : 2022年10月18日
本棚登録日 : 2013年3月7日

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コメント 2件

淳水堂さんのコメント
2022/10/19

knkt09222さんこんにちは

この勢いでボラーニョ長編『野生の探偵たち』もぜひ!

knkt09222さんのコメント
2022/10/19

淳水堂さんへ
次は何にしようかなと迷っていたので、『野生の探偵たち』に決めました。
コメントありがとうございます。

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