原題はギリシャ語だが、英題は「DOGTOOTH」(犬歯)。
(大人なのに)犬歯が生え変わったら、という不可能なルール設定だけでなく、子供を純粋培養するのは犬を躾けるのと同じことだという含意のある、高度なタイトル。
そこを、雰囲気優先で邦題を決めた人のセンスのなさよ。
専政的な父、補佐する母、そこそこ歳を重ねた兄、姉(調べると、撮影時は37歳!?)、妹、そして兄の性欲発散役のクリスティーナ。
家の中に入るのは以上。
父母の真綿のような狂気の背後には、既に失った子供の姿が透けて見えたりもする。
クリスティーナが姉妹に齎した性のファクター。そしてビデオ……「ロッキー」や「ジョーズ」や「フラッシュダンス」や(アメリカ文化!)。
さらにはきょうだいの内部から沸き起こる「成長」が、平穏に閉ざされた生活を、内側から侵食していく。
クリスティーナを廃して、外の人間は信じられないと姉妹を兄に選ばせて、母が選ばれた姉の身支度をする場面なんか、閉ざされた世界の狂気。
凄惨な設定でありながら、ブラックユーモアでもある。
父が必死にルールを設定更新しようとする姿(猫に襲われたから血まみれになった、飛行機が空を横切ったあとに墜落したと見做して模型を落としておく)や、悲しげなギターのアルペジオでフラッシュダンスとか。
ラスト……犬歯が生え変われば外に出られるという家庭内教育に則って、自ら犬歯を叩き割って、父の車のトランクに潜む。
が、父が出社しても、トランクは動かない。
動け、動け、と思ううちにエンドロール。
これは凡百のサスペンスよりスペクタクル。
「この闇と光」を連想したりもした。
鑑賞翌日に反芻するほどに印象深い。好きだ。
- 感想投稿日 : 2016年12月21日
- 読了日 : 2016年12月21日
- 本棚登録日 : 2016年12月21日
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