鑑定士と顔のない依頼人 [DVD]

監督 : ジュゼッペ・トルナトーレ 
出演 : ジェフリー・ラッシュ  ジム・スタージェス  シルヴィア・ホークス  ドナルド・サザーランド  ジェフリー・ラッシュ  ジム・スタージェス  シルヴィア・ホークス  ドナルド・サザーランド 
  • Happinet(SB)(D)
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感想 : 163
4

『いかなる贋作の中にも、必ず本物が隠れている』

前半で一風変わったラブロマンスかと思いきや、後半は怒涛、巧みなミステリーに変貌する。
伏線の張り方から、もう一度見たくなる、という売り込みらしいが、二度目見てみて感じ入ったのは主人公ヴァージル(ジェフリ・ラッシュ……「英国王のスピーチ」の先生)の「痛ましさ」。
現実の女性は信じられず絵画の女しか愛せない、さらには女の顔をコレクションしてしまうなんて、まったく自分そのもの。分身かと思うよ。
それが寄ってたかって騙されるのだから、辛いったらない。
本格ミステリとはいいがたい。
最近「金田一少年」を犯人の側から語りなおす漫画を読んだのだけれど、谷崎あるいは乱歩提唱の「プロバビリティーの犯罪」を超越した、「騙す相手がこちらの台本通りに動いてくれてウハウハな犯罪」というものがあるにせよ、「えーおまえどうしてそんな動きすんの。(共犯者に)なんでそこの演技もっとしっかりできないの。どんだけ金銭を要求すんだよ(そろばんぱちぱち)」という犯人の苦闘もまた裏側に存在する。
壮大な犯罪計画の裏には地道な深謀深慮があるのだ。
そこまで、連想させられた。
つまりは骨の髄まで美味しい映画だったというわけだ。

また、映画や小説や絵画やといった芸術が好きだなんていう人のモチベーションは多分に「俺の思い通りになってくれる異性」への欲望であり、その真裏には、予測不可能な他者への予期恐怖と拒絶、がびっしりと苔むしている。
代表例はヒッチコック「めまい」だが、変奏曲は無数にあるし、ジェームズ・L・ブルックス「恋愛小説家」、カラックス「ポンヌフの恋人」(頭を抱える男の腕を引きはがす女の「心、を、開、く、の、よ」)も同一テーマだろう。
他人事じゃないのだ。

もっともよく語られるのはきっとプロットと脚本だろうけれど、演出面でひとつ。
ヴァージルがある絵画を落とす場面があるのだが、そこの音の凄まじさ。
世界が崩れる音とはこうかと思った。

また、徹頭徹尾ヴァージルの視点で話は進むのだが、彼が路上でボコられる場面だけ、朦朧としたヴァージルの視点を離れて「ふたりの女性」の視点にカメラが移行する。
ここはミスというわけではまったくなく、語り手の攪乱が物語の核を効果的に視聴者に提示するための「起点」になっている。
そしてまた、二階で屋内の女性→路上で悶えるヴァージル←二階で屋内の女性、というシンメトリカルな構図でもあるという、まさに映画巧者でしか生み出し得ない「はみだし」なのだ。

ちなみに人形者としては、ヴォーカンソン(タンバリン、アヒル)やメルツェル(チェスプレイヤー……エドガー・アラン・ポー)といった、自動人形が魔術と受け止められていたころの挿話に言及されるのも、味わい深かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 洋画
感想投稿日 : 2018年1月2日
読了日 : 2018年1月2日
本棚登録日 : 2018年1月2日

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