獅子 (中公文庫 い 8-4)

著者 :
  • 中央公論新社 (1995年4月18日発売)
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感想 : 24
4

主人公は92歳!ワクワクドキドキのエンターテイメント!

主人公が92歳で、娯楽小説っていうだけで凄いですね。
純ブンガクとかならともかく(笑) 



92歳の主人公は、真田信之さん。
今年(2016)のNHK大河ドラマで言うと、大泉洋さんです。 

有名な真田幸村さんの実の兄。
弟の幸村は、大阪の陣で徳川家康を追い詰めて、戦死。
それが1615年で、まあだいたい48歳くらいで亡くなったそうです。

その、お兄さん。

と言ってもどうやら1歳上なだけのようですね。

この信之さんは、お家を守るため、(かどうかわかりませんが)徳川傘下の大名として生き延びました。

それどころか異常な長生きをしました。

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信之さんも、若い頃は武田勝頼やら織田信長やら、という時代と状況の中で右往左往していたのですが。そういう有名人より長生きして。

豊臣秀吉より長生きして、
徳川家康より長生きして、

家康の息子の秀忠より長生きして、

なんと家康の孫の家光より長生きして。

1658年に92歳くらいで死んでいます。92!。

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しかも、恐ろしいのは生きていただけではなくて、元気だったんですね。
信じられないのですが、90歳まで、色々事情があって、隠居せずに現役の藩主として政治を行っていたそうなんです。

そして、倹約を旨として偉大な財政家、名君だったそうです。

もう、家光の頃になると、戦国時代真っ只中の雰囲気を語れる大名はほぼいなくなってしまって、信之さんは将軍からも凄くリスペクトされたそうです。

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池波正太郎さんの小説。
池波さんと真田…。
何と言っても文庫本で10冊を超える大長編、「真田太平記」(連載1974−1983)。

戦国時代を生きた真田昌幸、その長男・信之。そして次男・幸村。
この親子を軸にした大河小説。
1985年にはNHKでドラマ化もされました。
ちなみにその際の信之役は渡瀬恒彦さん。幸村役が草刈正雄さん。
最終回のラストカットが、1985年当時の特殊メイクの限りを尽くして、90代らしき白髪茫々たる渡瀬さんが拝めます。
(物語自体は、信之さんが50歳くらいのあたりで終わりますけれど)

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この「獅子」は、真田信之さんが92歳のときの話なんです。
実際にその頃に、真田家では跡目争いが起こって、藩内ががたがたしたそうです。史実として。

それを背景にした、もちろんフィクションの娯楽小説。

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92歳の楽隠居の真田信之さんですが、まだまだ誰よりも思慮深く経験豊かで、人脈も持っています。

そこで、お家騒動に困った重臣たちが、泣きついてくる。

一番の悩みは、お家騒動にかこつけて、幕府がいちゃもんをつけてくるだろう、ということ。そうなると、最悪、お家取り潰し。会社倒産、一家離散です。

当時の幕府のトップは、老中・酒井忠清。真田の松代城下や家臣団にまで張り巡らせたスパイの網を使って、追い詰めてきます。
これに、92歳の真田信之が、老体の知恵のみで敢然と対決する…。

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なかなかワクワクさせられる小説でした。
池波さんらしく、実に読みやすい。
男女のアヤみたいなものも絡んできます。
(信之さん本人ではありません。92歳ですから)

薄めの文庫本一冊なので、するするっと気軽に読了。

粘液質に完成度の高い緊密な攻防、という程でもないですが、
気の利いた海外ミステリーを読んだような余韻。

トリック、仕掛け合いだけではなくて、
その周りの脇役たちの人生模様が丁寧に描かれていたり、
何よりあまりにも波乱に飛んだ人生を歩んできてしまった主人公の、老境の想いが香り高い芳醇な洋酒のような。
コクのある後味。

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つまりは、2016年の大河ドラマ「真田丸」や、
池波さんの大長編「真田太平記」の、
後日譚に当たる小説なんです。

なんですけど、実は、小説として書かれたのは先。

小説「真田太平記」の連載開始は1974年。
小説「獅子」は1973年には出版されています。初出がどこだったのか分かりませんが、とにかく先行しているんですね。

真田信之さんは老境になっても矍鑠、同時代の頃に、「信濃の獅子」と呼ばれたそうです。
恐らくタイトルはそこから来ています。

池波さんは、「真田太平記」を書き始めるときに、その大長編で最後まで生き残る、真田信之の92歳までの姿が描けていたんですね。

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ちなみに1。

2016年の大河ドラマ「真田丸」の作者は三谷幸喜さん。
三谷さんは1985年のドラマ「真田太平記」の大ファンだったそうです。「真田丸」でも「真田太平記」へのリスペクトやオマージュが散見されます。

何より、信之を始め主要メンバーの性格は、池波ワールドそのまんまです。

真田=家族愛と忍者、みたいな構造を、講談から現代的な娯楽に翻案した功績は、何と言っても池波さんですね。

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ちなみに2

池波さんは「獅子」より更に前に、江戸時代の真田家を舞台に傑作短編小説を幾つか書いています。「錯乱」(1960)など。

「獅子」とほぼ同工異曲のものもあり、短編集「真田騒動」(新潮文庫)に収録されています。この一冊、完成度凄い。

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ここしばらく、仕事で真田、真田、の時間だったので、
「この本をどうせ人生でいつか読むのなら、今読むほうが楽しいんぢゃないかな」
と思って。
楽しく読了。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本:お楽しみ
感想投稿日 : 2016年11月8日
読了日 : 2016年10月8日
本棚登録日 : 2016年11月8日

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コメント 2件

淳水堂さんのコメント
2016/11/08

koba-book2011さんこんばんは(^O^)

真田太平記は見たけど読んではいないのですが、
後日談(書かれたのは先とのことですが)も書かれてたんですね。
大河ドラマで信繁主役の真田ものと発表された時は、兄が主役の方が面白いんじゃない?などと思ったものです。もちろん始まってからは面白く見ていますが。

真田太平記終盤で稲姫を見送った渡さんが「わしが行くまで待っておれ」とかなんとかいうのを「あと半世紀近く先だけどね」などと思ったり、
今やっている真田丸で大泉さんが「(矍鑠たる矢沢の大叔父上の事を)100歳まで生きられる人間がいるものか」というのに「あなた100歳近くまで生きるじゃないですか…」と思ったりしてます(笑)

薄めの読みやすい本なら大河ドラマやってるうちに読んでみようかな、面白そうな本ありがとうございました!

koba-book2011さんのコメント
2016/11/09

淳水堂さん、コメントありがとうございます!

そうなんですよね。真田信之は92まで生きた、というネタを知っていると、真田太平記も真田丸もチョット楽しみが増えますよね!

その「長生きした信之さん」の息吹を感じられる、という意味では、(短いですし)素敵な一冊です!

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