落日燃ゆ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1986年11月27日発売)
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感想 : 348
5

7人のA級戦犯のうち、ただひとり文官で処刑された広田弘毅の生涯を描いた毎日出版文化賞、吉川英治文学賞受賞作。
広田は福岡の貧しい石屋の子に生まれながら、苦学して外交官の道を選びます。その理由は純粋に日本が外交の力の必要なことを痛感したから。時代は大正、昭和の激動期。本書の前半は幣原喜重郎、松岡洋右、吉田茂といった外務省の一癖も二癖もある人物たちとの対比によって広田の「自ら計らわぬ」という超然とした行き方を浮き彫りにして、広田の人間としての面白さ、魅力を描いていきます。また、満州事変、支那事変の関東軍の暴走を懸命に食い止めようとする広田の外交官としての責任感、平和への希求が冷静に描かれます。
後半は戦犯として裁かれる東京裁判での広田の描写が中心となりますが、前半で広田の協和外交を見てきた読者は広田が被告となったことに驚くはずです。本書は東京裁判が非常に政治的なイベントであり、外交官として「戦争について自分には責任がある。無罪とはいえぬ」と自ら弁護を行わなかった広田の潔さを描き、広田が絞首刑になるまでの過程を淡々と記します。
激動の昭和史を描いた歴史小説ですが、広田と夫人、3男3女との交流も触れられ、小説に奥行きが生まれました。

広田弘毅は本書で悲劇の宰相として知られるようになりました。ただ、実際の広田に関する実際の評価は一定していないと理解しています。それでも、外交官としての広田の生涯を鮮明に描いた作品は本書だけではないでしょうか。とても面白い本であることは間違いなく、一気に読みました。昭和史を手っ取り早く俯瞰したいという方にもお勧めですが、他の本も読む必要はあると思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史小説
感想投稿日 : 2022年9月14日
読了日 : 2022年9月14日
本棚登録日 : 2022年9月14日

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