恋する伊勢物語 (ちくま文庫 た 26-1)

著者 :
  • 筑摩書房 (1995年9月21日発売)
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本棚登録 : 715
感想 : 73
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恋する伊勢物語(俵万智/ちくま文庫)
「第2回すみれビブリオバトル」で紹介された本。なるほど、面白い本でした。ご紹介ありがとうございました。
「サラダ記念日」(1987年)で有名な著者の俵万智さんはもともとは高校の国語の先生。91年に刊行された第二歌集「かぜのてのひら」では

気にかかることはさておき教壇に立てば身にしむ『伊勢物語』

という歌が詠まれています。実際に伊勢物語を教えられていて、気にかかることがあっても「伊勢物語」が痛切に骨身に染み透って感じられるほど「伊勢物語」がお好きなのでしょう。この本を読んでいたら俵さんが楽しんで本書を書いたことを感じられました。

我々が高校で習った「伊勢物語」は色気の部分を完全除去した内容です。高校の先生が気持ち良さそうに「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」という在原業平の歌を説明したのを聞いて「だから、何?」と思ったと記憶しています。ところが、実際は「伊勢物語」は「三角関係あり、老婆とプレイボーイの関係あり、せつない片思いあり、浮気話あり、許されぬ恋あり、もう何であり」というお話です。

面白いと思ったのは
○誰かの夢を見るということは、その人が夢にまでやってくるほど自分に逢いたがっていると昔は解釈していた。それを知れば第9段「東下り」の「駿河なる宇津の山辺のうつつにも夢にも人に遭はぬなりけり」のニュアンスは違ってくる
○第60段と62段に出てくる男は女に見捨てられた男。両方とも捨てられた女に偶然に出くわすという話だが60段の男はスマートだが62段の男は非常に嫌な男
○第63段「世ごころつける女」は白髪のおばあさんと天下のプレイボーイという組み合わせ。その橋渡しをする親孝行な息子の行動とプレイボーイの「あはれ」と思う対象の変化が面白い。また「白髪」のことを「九十九(つくも)髪」と言った。これは百という字から一を取ると「白」という字になったから

本書は91年の1月から12月まで朝日新聞に連載されたコラムをまとめたもの。当時、俵さんはまだ20代。第90段のデートの約束はしてもらったが本当に会ってくれるのかどうかの不安に苛まれる男の気持ちについて若い俵さんが分析する章も面白かったです。

2週間先の約束嬉しくてそれまで会えないことを忘れる

こんな気持ちが味わえる20代だからこそ、本書のようなユニークな「伊勢物語」論が書けたのだと思います。
とにかく面白い本。私みたいに古典と距離を置いてきて方にむしろお勧めしたいです。
なお、本書は私の誕生日に読書好きのお友達から頂きました(若い女性。しかもかわいい)。この歳で女性から、こんな色っぽい本を頂けるとは思いませんでした。寿命が10年延びました。ありがとうございました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文芸
感想投稿日 : 2022年6月23日
読了日 : 2022年6月23日
本棚登録日 : 2022年6月23日

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