MM9

著者 :
  • 東京創元社 (2007年12月1日発売)
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感想 : 91
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自然災害の一種として『怪獣災害』が存在する現代。有数の怪獣災害国である日本においてその対策にあたっているのが『気象庁特異生物対策部』略して『気特対』である。彼らの任務は多種多様な怪獣の生態を調査し、警報を出したり対策を練ることであるが、たびたび予測を外し非難を浴びることもある。責任は重大でありながら、過酷で割に合わない仕事だ。
怪獣の規模は『MM』で表わされ、これまで確認された最大の怪獣は『MM8.9』である。兵器の殺傷力の増大と堅牢なビルの増加により、以前に比べ被害は減少しているものの対応を間違えれば大惨事になりかねない。そして今、怪獣をテロに利用しようとする謎の組織が現れ『MM9』クラスの怪獣が目覚めさせられようとしていた。


地震や台風被害の多い日本ですが、怪獣ですか!面白いのは怪獣がそれらの自然災害の一種となっていることです。なので管轄は『気象庁』、武器は持ちません。怪獣映画のように戦闘機で銃撃したりましてや隊員が変身したりなんてことは一切なく、彼らは予測と対策を立てるのがお仕事です(実際に戦うのは自衛隊)。なんだか突拍子もない設定なのにそこらへんが妙にリアルで微笑ましく思えました。
設定は現在、といっても微妙に前、20世紀終ぐらいでしょうか。なぜなら
未来の観測者によって過去は決定される。人の価値観が変われば、宇宙の過去も変化するということ。神が世界を作ったと信じられていた時代から、今では科学の発展によりビックバンが宇宙の始まりとされていますよね。そうなると神話はもはや物語でしかなく・・この怪獣災害もしだいに姿を消し、それが過去の自然災害と同化しているのが現在ということなんだと。昔話や伝承の中には災害を擬人化したとされるものも多数ありますので。逆を返せば、「一昔前は怪獣災害が本当にもあったかも」というロマンあふれるお話です。
そして、消えゆく存在として妖怪が「自分が存在したという事実を完璧に否定されるのは、最大の恐怖であり屈辱だ」と仰っています。確かに人は、この場合彼は人間ではありませんが同じ知性を持つ種としていえば、何か生きた証というか自分に存在意義を求めるものでしょうから。それに対する答えが「自分のいる世界だけではなく、いずれ完成するはずの世界にも影響を与えるなら、こうしてやっていることも決して無意味でも無駄でもない」ということ。確かに宇宙から見たら平凡で取り立てて才能のない自分なんかほんとにちっさな細胞、いや原子かもしれないけど、その原子だってなければ遠い未来に大きな影響があるかもしれないですもんね。まあそう思って生きていきたいです。

内容は、とても面白かったです。TV取材風にした「密着!気特対24時」とか、最後は怪獣大戦になったりだとか。巨大な少女の『ヒメ』ちゃんも可愛い。しいていえば最初に出てきた『灰田涼』、名前もかっこよかったのでもっと活躍してくれるのかと思ってたのが違ってた。まあ彼は戦闘員ではないしね。そんな彼らの活躍が現実世界で『ウルトラマン』的な特撮に繋がっていると感じさせるラストがgoodでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2020
感想投稿日 : 2010年4月26日
読了日 : 2010年4月26日
本棚登録日 : 2010年4月26日

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