残像に口紅を (中公文庫 つ 6-14)

著者 :
  • 中央公論新社 (1995年4月18日発売)
3.19
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本棚登録 : 11441
感想 : 723
3

読書芸人でカズレーザーが紹介していた本。
「幽遊白書」の元ネタになったということで興味を持ち購入、読了。

「文字が一つ一つ失われていく」という非常に変わった小説。
しかも「会話文」だけでなく「すべての文書」から文字が消えていくという驚愕の設定。
「究極の実験的長篇小説」という言葉がとても巧く表現しているように思う。

文字が失われていくにも関わらず、多彩な文章表現で違和感無く物語を綴っていく筆力には、ただただ圧倒された。
特に瑠璃子と交わるシーンでは、普通の小説と大差無く、むしろさらに妖艶な雰囲気が出ているようにすら感じられた。
限定された条件だからこそ、本来持っているポテンシャルが余すところ無く発揮されていたようにも思う。

一方で、物語全体としては非常に動きが少なく、中盤からの中だるみ感は否めなかった。
個人的には「技巧に特化」し過ぎている感じが最後まで残り、全体として何となく薄っぺらく感じてしまった。
自分との相性はあまり良くなかったかも。

「筆力」を考慮し、全体評価としては3点とした。

<印象に残った言葉>
・実はこの小説の冒頭から、五つの母音のうちひとつがすでに失われているんだ。気がついていたかい(P21、津田)

・それはやはり、お傍にまいるからには、君の横に並んで、自分のからだをそっと横たえることになります。当然、そのまま何もしないでじっとしていることには耐えられないから、じわり、じわり、と自分の片手を、畳の上に投げ出された君の手に伸ばしていくことでしょう。その片手の先、鋭い触感の密なる部分が密なる部分にそっとさわって、それはつまりわたしと君のからだの史上最初の部分的つながりということになります。(P159、佐治)

<内容(Amazonより)>
「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまった。世界からひとつ、またひとつと、ことばが消えてゆく。愛するものを失うことは、とても哀しい…。言語が消滅するなかで、執筆し、飲食し、講演し、交情する小説家を描き、その後の著者自身の断筆状況を予感させる、究極の実験的長篇小説。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: レビュー有
感想投稿日 : 2017年12月24日
読了日 : 2017年12月24日
本棚登録日 : 2017年12月24日

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