天国からの道 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2005年8月28日発売)
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感想 : 66
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“「常識」を知らない者は「非常識」を表現できない“と言った奇行人 星 新一。
上場会社を経営して騙され辛酸を舐めた星 新一。
前人未到のショートショート1001編という偉業を達成した星 新一。
彼の処女作など単行本に収録されなかった作品を没後に集めた作品「気まぐれスターダスト」を再編集し、1001編到達後の作品を追加収録した一冊。

今更ながら科学の進歩は凄まじい。
人の欲望を究極まで突き詰めたらどうなるのか?
そんな未来予想図を描いた作品「天国からの道」が強烈です。
役人臭い天使が一生懸命営業をかける滑稽さの後に待つ、痛烈にシニカルな結末に打ちのめされます。

ほかにも、災難に逢う人間が鮮やかに大逆転する「悪夢」や、頭脳優秀で恋愛をバカにする鼻持ちならない男女を宇宙船で共に過させる「火星航路」も見逃せません。
特に「火星航路」は恋愛話のようで、いろいろ深いです。
“世界は統一されるより区別されている方がなにかと便利で親密的である”なんて憲法学者の言うようなことがさらりと述べられています。
“大衆はうすのろだ。幸か不幸か、議論すら持ち出さない。これこそ幸福の証拠だ”
なんてことも数行でしか触れていませんが、なかなか深いと思います。
それで結局“大衆は、ひとに勝つことより、宇宙の神秘を知ることより、他人の色恋の話に一番興味を示す”みたいなテーマを持ってくるあたりに苦労人 星 新一のクールな人間臭さを感じました。

星 新一は世の流行、風俗を作品に一切反映させなかったので、世代問わず誰でも楽しめます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2013年11月15日
読了日 : 2013年11月15日
本棚登録日 : 2013年11月15日

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