訪問者 (1) (小学館文庫 はA 4)

著者 :
  • 小学館 (1995年8月10日発売)
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本棚登録 : 1288
感想 : 101
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もうね、とんでもない傑作ですよ。志賀直哉の『暗夜行路』なんて、捨てちゃいなさい。かわりにこの『訪問者』を教科書に載せたらいい。その前にまず、閣僚はみんな読んで、原稿用紙10枚以上の感想文提出のこと(女性閣僚は『イグアナの娘』で)。(長山靖生「萩尾望都がいる」256p)

実際、『訪問者』を読むと、たいていの父親は泣きます。中学生以下の息子がいる父だと百発百中。(同257p)

萩尾望都は、やっと親離れが出来始めたと感じた80年代から親子問題を描き始めます。(『メッシュ』『半神』『イグアナの娘』『残酷な神が支配する』)「訪問者」はその最初の作品です(1980)。「トーマの心臓」(1974)でひとり大人びた雰囲気で、トーマとは違う方法でユリスモールを守り、でも自らはギムナジウム校長の実子であるという葛藤を抱えていたオスカー・ライザーの、学校に来るまでの数年前の物語です。

私に息子はいないので泣きませんでした。実際、百発百中なのか?聞いてみたい気がします。


ある時‥‥雪の上に足跡を残して神さまがきた。
そして森の動物をたくさん殺している狩人に会った。
「お前の家は?」と神さまは言った。
「あそこです」と狩人は答えた。
「ではそこへ行こう」裁きを行うために。
神さまか家に行くと、家の中にみどり子が眠っていた。
それで神さまは裁くのをやめて、きた道を帰っていった。

冬ごとに
ぼくは雪の上に神さまの足跡をさがした。
ーーたいせつなものが
この世にはあるのですーー


子どもは、特に男の子は家庭の親父のダメなところは何もかもがわかって、それでも親父を守ってきたけど、その気持ちは父親には伝わらない。
ー親父からは、ぼくが裁きをなす神さまに見えていたというのか?

ギムナジウムに来るまでの1年間、オスカーと父親はどんな旅をしたのだろう。とふと思ってこの作品を書いたと、30年ほど前に萩尾望都のインタビューを読んだことがある。それどころか、B5版のコミック発売ではなく、100pだけの上製単行本の漫画が初めて発売されるという冒険を行ったのがこの本だった。そしてそういう漫画を私が初めて買ったのがこの本だった。コミックスさえ、古本でしか買わない私にとっては大事件だった。それでも、「トーマの心臓」と同じで、結局私は力作だとは思ったけれども、泣きはしなかったし、オスカー目線でしか読めなかったこともあり、そんなに名作とも思わなかった。

あれから30年。改めて読むと、父親目線で読むと、よくもまぁ親子心中をしなかったな、とか、どうやって旅の金を工面したのだろうか?とか、第二次世界大戦の影があちこちにまだ残ってるんだな、とか、南米に行って、息子に手紙を書く約束をしたことで、おそらく彼グスタフは人生が救われているな、とか、いろいろ思った。今更ながら、これは裏『トーマの心臓』なのだとも思った。

まぁ閣僚に読ませてもムダだとは思うけどね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: は行 フィクション
感想投稿日 : 2022年9月21日
読了日 : 2022年9月21日
本棚登録日 : 2022年9月21日

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コメント 2件

淳水堂さんのコメント
2022/09/22

kuma0504さんこんにちは。

やっぱり「来訪者」良いですよね!
「ぼくは家の中の子供になりたかった」
萩尾望都さんの絵も、私はこの頃が一番好きかもしれません。

私も読んだのかなり昔なので、父親目線で「百発百中泣く」は知りませんでした 笑

ちょうど今読んでいる海外小説が「父親と息子が旅をして、息子は寄宿舎に入る」という本です(こちらは犯罪とかではないのですが)。なんかタイムリーにレビューをお見かけしました。

kuma0504さんのコメント
2022/09/23

淳水堂さん、おはようございます。
「来訪者」良いですよね。

父親と息子の旅、というのはお喋りしない分、何か特別な空気が流れるのかな。
レビュー楽しみにしています。

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