かつて重松清の文庫本は全て揃えようとした時期があった。新潮文庫のラインナップは、彼のデビュー作から揃えている貴重なものなのであるが、見てみると15作目の「みんなのなやみ」以降は読んでいないのに気がついた。
なぜか。作劇が上手すぎるのだ。悪いことではない。悪いことではないんだけど、家族を持っていない私には、もういいかな、という気になってしまう。
というわけで、重松清を読むのは年に1ー2作品になった(←このペースでは彼の作品を網羅することは出来ない)。久しぶりの重松清。しかも新潮文庫ラインナップを飛び越えて最新作をつい手にとってしまった。
今回も上手かった。最初、すわ三角関係か⁉不倫か⁉はたまた大逆転でみどりさんと建ちゃんがくっついたりして(^_^;)などと妄想を膨らます展開を用意しておきながら、最後には意外な落としどころを見つける。それ、含めて上手すぎるのである。編集者は作品紹介で「愛すべきホームコメディ」と書いているが、これはコメディではない。
あと、内容とは全く関係ないけど。このみどりさん(泣き虫姫アヤさんのお姉さんで独身雑誌編集者)の指摘に、大いに頷いたので書き写す。
「そういう時代って、どんな時代ってこと?」
「え?」
「みんな言うのよ、若いママに取材すると。いまと昔とは違うんだ、いまの時代の子育ては昔と同じわけにはいかないんだ、って。でも、じゃあ、昔とどこがどう違うんですかって訊いたら、みんな黙っちゃうの。あんただったら、どう答えるの?」
「それは…だから…いろいろ事件もあるし…」
「でも、昔だって誘拐とか交通事故とかあったよ」
「子どもの数も減ってるし…」
「わたしやアヤの頃もそうだったじゃない。知ってる?ニッポンの少子化って、1970年代から始まってるんだよ」
アヤがそれ以上言葉をつづけられないのを確かめてから、みどりさんは「わたしは親じゃないからわからないけど」と前置きして、歩き出しながら言った。
「昔といまの違いって、子どもをめぐる環境じゃなくて、むしろ親のほうにあるんじゃないかなあ、って思うけどね」
その言葉にも、アヤはなにも応えられなかった。(172p)
2015年10月21日読了
- 感想投稿日 : 2015年10月28日
- 読了日 : 2015年10月28日
- 本棚登録日 : 2015年10月28日
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