舟を編む (光文社文庫 み 24-2)

著者 :
  • 光文社 (2015年3月12日発売)
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「舟を編む」を半分まで読んだ翌朝、つまり馬締のラブレター作戦のくだりを読んだ後、私はこんな夢を見た。

私は若くて綺麗な女性と知り合いになる。そのあと労務者2人とも知り合いになる。そのあと知り合いの先輩から、「(先輩と同じアパートに住む)あの女性が(同アパートに住むあの労務者から)目をつけられて困っている、ひいてはお前は知り合いらしいから一緒に行って談判して欲しい」と頼まれる。(以上夢なので色々長いけどかなり端折りました)
私はその古いアパートに赴くと、ちょうど彼女が保育所から子供2人を連れてアパートの2階に上がる所だった。
「仕事帰りですか?」私は尋ねた。驚く彼女に「先輩がこの一階に住んでいるんで、訪ねてきたんです」と言い訳をした。子供はお母さんの知り合いとわかると「こんにちは」と、はもりながら天使の笑顔を見せる。
一階の先輩は、同じく一階の労務者の部屋に入ろうとしている所だった。用件は伝わっているらしくすんなり部屋に入る。中はかなり整頓されている。労務者は仕事場で知り合い、部屋を折半して借りているらしい。話の流れから、単に可愛い彼女を真面目に口説き落とそうと「ちょっかい」に見える口のききかたをしただけのようだ。それでも私は2人に注意する。
「(彼女はいま一生懸命生活を立て直している最中なのだから)乱暴な口のききかたをする貴方たちの相手をするのは不安なんです」
「乱暴な」というワードに、かなりショックを受けているようだった。2人は了承した。
そこで夢が覚めた。
そして呟いた。「馬鹿らしい」
何の資格があって、私はあんなことが言えたのか?私の方がよっぽどいやらしいではないか?

この夢を書き記している間、「はもる」という言葉がどうも気になって調べてみた。ちゃんと辞書にあった。

ハモ・る
〘自ラ五(四)〙 (ハモは「ハーモニー」の略) 二つ以上の声部の声、または音が、ひびき合う。ハーモニーを生じる。
出典 精選版 日本国語大辞典
※「新明解国語辞典第五版」には不記載。

実はスマホ辞書では「ハモ・る」はカタカナにも漢字にも変換されなかった。日本語になっていないのか疑問に思ったのである。スマホが認識していなかっただけで、立派な「日本語」になっていたようだ。辞書はやはり素晴らしい。ちょっとした言葉の疑問が直ぐに氷解する。「ハモる」は、いまや音楽家のみが使う言葉ではなくなっているのである。それに見合う語釈がちゃんとされていた。

え?何の話をしているのか?だって。
そうだった!
「舟を編む」と私の夢とどう関係あるのか、説明するべきだった。
主人公馬締(まじめ)は、同じアパートに住む香具矢(かぐや)さんに恋をしている。その状況が、私に往年の名作「めぞん一刻」を思い出せ、アパートの管理人で美貌の未亡人たる女性に恋する男たちの顛末を夢の中で再現してしまったということらしい。つまり、この夢の中、2人の労務者どころか、先輩も私も、2階の子供連れの女性に恋をしていたということだ。「舟を編む」の第二章の終わりで、馬締の恋は成就する。しかしあまりにも不器用な成就であった。
馬締よ、お前の恋は羨ましいぞ!
その気持ちが、こんな変な夢に変化したということらしい。

いったい私は何を読まされているのだろう?

そう思った貴方、
正常な感覚をお持ちです。
本来本書は『大渡海』という新しい大辞書を編纂する編集部員たちの15年に及ぶ泣き笑いの奮戦記である。もちろん汲めども尽きぬ言葉を巡るアレコレの魅力が、この小説に詰まっている。

一方で、これは不器用な男女の恋の物語である。この書評は、それを強調せんがために書かれたものなのであった。

(せっかく遊園地の観覧車までたどり着いた2人が)
「俺、遊園地の乗り物の中で、観覧車が1番好きです」
少し寂しいけど、静かに持続するエネルギーを秘めた遊具だから。
「私も」
馬締と香具矢は、共犯者のように微笑みあった。(92p)

それだけで終わってしまうデートは、多分私的にはツボだったのだろう。
同僚の西岡の恋の顛末も共感できるものだった。
言葉にならない、その共感が、夢の形で現れたことに、私自身全く驚いたのである。
だから言葉にした。
「馬締が言うには、記憶とは言葉なのだそうです」(267p)
夢の顛末と感想と。

恋が上手くいった秘訣は、やはりあの毛筆のラブレターに違いない。「漢文は読めない」と言っていたから、江戸時代の候文なのだろうかと想像していたら、文庫本巻末に「馬締の恋文 全文公開(西岡・岸辺解説付)」がありました。ナイス!三浦しをんさん。一読、うーむ、やはり我が教養でもわかりにくいけど、気持ちは伝わるな。参考にしよう(←いつ?誰に?)。

よし。本屋大賞一位で、読むべき文庫本は「流浪の月」のみになった。春の「52ヘルツのクジラたち」文庫化までに読み遂げるぞ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年1月11日
読了日 : 2023年1月11日
本棚登録日 : 2023年1月11日

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コメント 14件

Macomi55さんのコメント
2023/01/11

kuma0504さん
おはようございます。
なんのレビューだったっけ?と思いながら興味深く読ませて頂きました。
夢の中での言葉が気になって、起きてからその言葉が本当にあるかスマホで調べた経験は私もあります。夢の内容は、起きてから一分も経たずに消えていくのに。kumaさんここまで夢を再現出来るのすごいですね。

kuma0504さんのコメント
2023/01/11

Macomi55さん、こんにちは。
弁明する機会を与えてくださりありがとうございます♪

いや、夢は私も普通は直ぐに忘れますよ。でも時々、覚める直前の夢は覚えていることもあって、時々メモすることもあります。

今回は、労務者に話している時、あるよね、普段は寝言言わないのに無理して寝言言おうとすると、何故か口が開かなくて無理して変な発音で喋ろうとすること(←私だけ?)。そんな感じになったんで、目が覚めたんです。だから起きた直後は「なんでこんな夢を見たんだろ」と暫く考えたんです。普通夢は実在人物がモデルになります。先輩のみはモデルがありましたが、労務者も彼女もアパートもモデルが見当たらない。そこでふと思いついたのが、昨夜読んだ小説と、「めぞん一刻」と、この間観た映画あれこれということでした。布団の中でそんなことを思っていると、ちゃんと記憶できるわけです。まぁ5分ほどですが。それで、メモしながら考えたことは「これは書評に使えるな!」という事でした。

真夜中のラブレターと目覚めの夢は使っちゃいけない。

書けば書くほどドツボにハマってゆくのが分かりましたが、今更後には引けない(^^;)。
‥‥とまぁ、そういうことです。
大変失礼しました!

kuma0504さんのコメント
2023/01/11

Macomi55さん、
そう言えば「なんのレビューだったけ?」と書いてくださっていますが、

新明解国語辞典をよれば、レビューとは「評論」のことで、書評とは「ブックレビュー」が正しいようです。でも「Bestブックレビュー」と書くのは冗長で明日のUPはどうしようかと悩んでいます。

ブクログの中では、何故か書評=レビュー、がある程度通用しているようで、
ブクログという小さな世界だけで通用しているのかもしれませんが、
「言葉は生き物」だから、このまま押し通すのが良いような気もしています。

どう思いますか?

Kazuさんのコメント
2023/01/11

kuma0504さん
こんにちは。

review = re + view = 再び-よく見る
なので、「レビュー」という言葉はいろんな場面で使われます。 

新しい商品に対する(カスタマー)レビュー
仕事の有効性を判断する(マネジメント)レビュー
本の内容を語る(ブック)レビュー

何を対象にしているのか分かっている時は単に「レビュー」で上記(カッコ内の言葉)はなくても通じるので、
ブクログ内では「ブックレビュー」に決まっています。
あえて「マネジメントレビュー」をするのでなければ、単に「レビュー」でいいと思いますよ。

kuma0504さんのコメント
2023/01/11

Kazuさん、こんばんは。
>ブクログ内では「ブックレビュー」に決まっています。
そうですよね!
みんなそう使ってる。
やがてはこの意味が新明解国語辞典に「用例採取」されると思います。

そう言えば、
今日も、新明解を読んでいたら、ひとつ用例採取しました。
【鬼】の項目で、名詞の鬼の他に「接頭語」として使われることがあるのです。
①鬼の顔をした「ー瓦」
②きびしくて、こわい。「ー監督」
③同類の中では大形に属する。「ーシダ」

しかし、最近「とっても」「最高の」という意味で使われる事が多い。レビューの中に「鬼★5」という使われ方もされます。
第八版ではどうなっているんだろ。

Macomi55さんのコメント
2023/01/11

kuma0504さん、Kazuさん
こんばんは。
そうそうブクログでレビューと言ったらブックレビューに決まったますから、ただの“レビュー“にでいいんですよ。まあ、ブック以外のレビューを書く人もいますが(誰?)
“鬼“の新しい意味が第八版に加わっているか、気になりますね。「ヤバい」「エグい」の新しい意味は入っているでしょうか?(我が家では新しい意味の使い方のほうが勢力があります)
私が若い頃、“全然“の後に肯定することについて、親たちが目くじらを立てていましたが、「全然いい」みたいな使い方は江戸時代頃でもされていたと確か聞いたことがあります。
言葉って生き物で成長していくものなのですね。

kuma0504さんのコメント
2023/01/11

Macomi55さん、こんばんは。

>ブック以外のレビューを書く人もいますが(誰?)
ハイ!それは私です。それも割と頻繁に。

それでも、皆さんの(暖かい)お言葉に甘えて、「レビュー」を使わせていただきます。

Macomi55家の新語、97年発行新明解国語辞典には載っていませんでした。
でも辞書を引くと、それなりの発見があるから面白い!

やばい(形)(口頭)(もと、犯罪者や非行少年などの社会での隠語)①警察につかまりそうで(の手が回っていて)危険だ。②不結果を招きそうで、まずい。
←漢字が使われていない!どうも近代(戦後?)に生まれた日本語らしきということにビックリ。しかも、①の意味は知らなかった。

えぐい(形)あくが強くて、のどがひりひり刺激される感じだ。えごい。ーみ。
←「えぐい」という新しい使い方自体、(つまり好感を持って使われるという事ですよね?)私は知らなかった。

「全然」は、Macomi55さんの認識の方が正しいようです。
ぜんぜん【全然】(副)その事柄を全面的に否定する意を表す。全く。「ー(=まるで)なっていない」(俗に、否定表現を伴わず、(非常に)の意にも用いられる。例、「ー(=てんで)おもしろい)

Macomi55さんのコメント
2023/01/11

kuma0504さん
「エグい」の肯定はいつまで続くか分かりませんが(^_^)。娘たちの言葉にいつも「それはどっちだ?肯定か?否定か?」とアンテナを尖らせていなければならないので疲れます。( ̄∇ ̄)

kuma0504さんのコメント
2023/01/11

Macomi55さん、
娘さんが使うんだ!

それ、えぐーい!
とか言うのか。今ひとつイメージが‥‥。

Macomi55さんのコメント
2023/01/11

kuma0504さん
関西弁で「エグいなあ」です(⌒▽⌒)。
もとは悪いほうの意味だった「すごい」が、「素晴らしい」の意味になったのと同じですね。

kuma0504さんのコメント
2023/01/11

Macomi55さん
なるほど
勝手にイメージしていたのより
少し大人ですね(^^;)。

すごい【凄い】
ホントだ!語釈に①と②があって、①「恐ろしくて.ぞっとするような感じだ」となっている。江戸時代に「凄い美人だ」と言っちゃいけないのね。

Macomi55さんのコメント
2023/01/11

kuma0504さん
なんて言ってたんでしょうね。^ ^

bmakiさんのコメント
2023/01/11

面白いお話ですね(笑)
一つの物語として、このレビューを楽しんでしまいました(笑)

私も物語ばかり読むので、夢が超大作になることがあります。
起きた時に、あー今の世界が小説になったら凄いのに!って思うことがあります。

このレビューを読んで、小説読みさんの夢って、やっぱり壮大なんだなぁって感じました(^-^)

kuma0504さんのコメント
2023/01/11

bmakiさん、
ありがとうございます。
今回は壮大ではないんですが、
夢を見ながら、コレ全部記録できたら映画一本できるのになあ、てことはよく思います。
で、気になってevernoteの「こんな夢を見た」で検索して10個ほどの「夢メモ」読んでみたら、
コレが見事に面白くない!
そんなモンです‥‥。

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