ページ数が少ないと言う意味では読みやすいと言えるけど、句読点が省略されている点では読みにくいと言える。自分は慣れない文章のリズムに苦戦して結構時間がかかった。
話自体は至ってシンプル。
心理描写も少なく物足りなさを感じるほど簡潔。
言われるほどの良さが分からなかったなと思い巻末の解説を見ると、春琴抄のその簡潔さに究極の美を感じる人が多いよう。
「百の心理解剖だの性格描写だの会話や場面だの、そんなものがなんだとの感じが強く湧いてくる」と谷崎潤一郎は苦悩したという。
昔は(今も少し)結末を有耶無耶にして「あとは皆様のご想像にお任せします……」というような投げかけの物語が大嫌いだった。もやもやするし、意地悪に考えればそれは「逃げ」なんじゃないのと思っていた。でも今はちょっと違う。
物語の延長に読み手の考える余地を残しておいてくれることは、書き手から読み手への信頼があるんじゃないかと思っている。
全部を説明しなくても分かる、情景や心理描写に言葉を尽くさなくても感じてくれる、読み手にそんな期待を持ってくれてるのではないか。
勿論人間同士言葉を尽くさなくても理解しあえるなんていうのは傲慢な考えだけど、こと芸術においては自分の思うままを表現して、それが読み手に正しく伝わった時の心の共鳴はお互いにとって何者にも変え難い瞬間だと思う。
谷崎潤一郎の独自の文体も、敢えて省かれた心理描写も、ある種の作者と読者の信頼の形であると考えるのは慢心なのかもしれない。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2024年3月14日
- 読了日 : 2024年4月5日
- 本棚登録日 : 2024年3月14日
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