2000年発行の、穂村弘さんによる、歌人になるための指南書と呼ぶべき一冊です。
まず、「想い」をいかにして短歌形式に込めるか、から始まり(「短歌はプロに訊け!」の出張版では、東直子さんの意見も読めて興味深い)、仲間を見つける方法(結社や同人誌等)、歌集の作り方に、歌会、批評会、青空朗読コンサートと、展開していきますが、私が心を揺さぶられたのは、それらとはまた別の観点で、二つありました。
一つ目は、過去の様々な名歌に対する、穂村さんの分析が読めることで、これは贅沢だなあと感じ・・本来の趣旨は、これを読んで、如何に衝撃のある歌を作るかの勉強にすることだと思うのですが、私にとっては、興味ある歌人を知るきっかけにもなりました。
いくつか挙げますと
砂浜に二人で埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね 俵万智
(お名前は有名で知っていたのですが、歌を知ったのは初めてでした)
永遠(とこしえ)にまろぶことなき佳き独楽をわれ作らむと大木を伐る 石川啄木
(歌集に未収録とのことですが、私的には、一握の砂より印象的でした)
白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ 若山牧水
(穂村さんの分析で震えが走りました・・白鳥の白)
かたむいているような気がする国道をしんしんとひとりひとりで歩く 早坂類
(未体験でも、ぞくぞくするようなこの臨場感は何でしょう?)
やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君 与謝野晶子
(何も言うことはありません)
さみだれにみだるるみどり原子力発電所は首都の中心に置け 塚本邦雄
(同じく言うことはありません)
「ロッカーを蹴るなら人の顔蹴れ」と生徒にさとす「ロッカーは蹴るな」 奥村晃作
(こう言えば、どちらも蹴らないと思ったのだろうか。それとも本気で言っているのだろうか。本気だとしたら、その表現の仕方が怖い)
海で洗ったひまわりを投げる 未発見ビタミン的な笑顔のひとに 穂村弘
(神谷きよみさんに贈ったバースデイ短歌があまりに素敵で載せたかった)
それから、二つ目は、穂村さんが短歌を作りたくなったエピソードを、本書で知ることが出来たことです。
そして、それは穂村さん自身が如何にして、脆弱だと思っていた過剰な自意識に向き合ったのかを、知ることができたことでもあり、それは彼の人生のドキュメントを観ているようで、ここまで自らの内面を曝け出して、世界の不気味さの意味を探し続け、短歌の定型の鏡の中に、言葉という形で自分自身を見出した、穂村さんはやはり凄い方なんだなと、改めて実感いたしました。
エッセイでは面白い人だと感じましたが、やはり、短歌の分析における歌人の想いの強さには、想像を絶するひたむきさがあり、それは、
『ひとつの歌と出逢うことはひとつの魂との出逢いである』
『ひとりの夢や絶望は真空を伝わって万人の心に届く』
といった言葉からも、感じられました。
ここで、最後に、他のレビュアーさんもされている、本書あるあるをひとつ。
それは、「本書を読むと、短歌を作りたくなる!!」
というわけで、私も作ってみました(^^;)
どうか、大らかな気持ちでお詠み下さい・・
蝉の低空逃避行 もしかして私から片想い持ってっちゃった?
(近所のスーパーに歩いて行く途中で、アスファルトすれすれに飛んでいた蝉)
しんにゅうしゃのみを照らすと思いきや 狗尾草をかき分ける猫
(うちの玄関にある、何かが動くと灯りの点くセンサー)
「資源循環の早い竹を使用しています」竹のこころはどこ?
常に見逃す電球の直列接続片方消ゆその瞬間を
蛍光灯の糸昇った先にある あたしの放した悪意どもが
L⇔R 「Red & Blue 」より
想いの地遠くなりけり宵闇に きみのまなざし黄昏に燃ゆ
ひとひらの雪ひとひらの泪 ひとひらの君のみ胸に宿して
失礼いたしました<(_ _)>
- 感想投稿日 : 2022年8月7日
- 読了日 : 2022年8月5日
- 本棚登録日 : 2022年8月4日
みんなの感想をみる