短歌という爆弾: 今すぐ歌人になりたいあなたのために

著者 :
  • 小学館 (2000年3月1日発売)
3.60
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本棚登録 : 305
感想 : 35

2000年発行の、穂村弘さんによる、歌人になるための指南書と呼ぶべき一冊です。

まず、「想い」をいかにして短歌形式に込めるか、から始まり(「短歌はプロに訊け!」の出張版では、東直子さんの意見も読めて興味深い)、仲間を見つける方法(結社や同人誌等)、歌集の作り方に、歌会、批評会、青空朗読コンサートと、展開していきますが、私が心を揺さぶられたのは、それらとはまた別の観点で、二つありました。

一つ目は、過去の様々な名歌に対する、穂村さんの分析が読めることで、これは贅沢だなあと感じ・・本来の趣旨は、これを読んで、如何に衝撃のある歌を作るかの勉強にすることだと思うのですが、私にとっては、興味ある歌人を知るきっかけにもなりました。

いくつか挙げますと

砂浜に二人で埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね 俵万智
(お名前は有名で知っていたのですが、歌を知ったのは初めてでした)

永遠(とこしえ)にまろぶことなき佳き独楽をわれ作らむと大木を伐る 石川啄木
(歌集に未収録とのことですが、私的には、一握の砂より印象的でした)

白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ 若山牧水
(穂村さんの分析で震えが走りました・・白鳥の白)

かたむいているような気がする国道をしんしんとひとりひとりで歩く 早坂類
(未体験でも、ぞくぞくするようなこの臨場感は何でしょう?)

やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君 与謝野晶子
(何も言うことはありません)

さみだれにみだるるみどり原子力発電所は首都の中心に置け 塚本邦雄
(同じく言うことはありません)

「ロッカーを蹴るなら人の顔蹴れ」と生徒にさとす「ロッカーは蹴るな」 奥村晃作
(こう言えば、どちらも蹴らないと思ったのだろうか。それとも本気で言っているのだろうか。本気だとしたら、その表現の仕方が怖い)

海で洗ったひまわりを投げる 未発見ビタミン的な笑顔のひとに 穂村弘
(神谷きよみさんに贈ったバースデイ短歌があまりに素敵で載せたかった)

それから、二つ目は、穂村さんが短歌を作りたくなったエピソードを、本書で知ることが出来たことです。

そして、それは穂村さん自身が如何にして、脆弱だと思っていた過剰な自意識に向き合ったのかを、知ることができたことでもあり、それは彼の人生のドキュメントを観ているようで、ここまで自らの内面を曝け出して、世界の不気味さの意味を探し続け、短歌の定型の鏡の中に、言葉という形で自分自身を見出した、穂村さんはやはり凄い方なんだなと、改めて実感いたしました。

エッセイでは面白い人だと感じましたが、やはり、短歌の分析における歌人の想いの強さには、想像を絶するひたむきさがあり、それは、

『ひとつの歌と出逢うことはひとつの魂との出逢いである』

『ひとりの夢や絶望は真空を伝わって万人の心に届く』

といった言葉からも、感じられました。


ここで、最後に、他のレビュアーさんもされている、本書あるあるをひとつ。

それは、「本書を読むと、短歌を作りたくなる!!」

というわけで、私も作ってみました(^^;)
どうか、大らかな気持ちでお詠み下さい・・


蝉の低空逃避行 もしかして私から片想い持ってっちゃった?
(近所のスーパーに歩いて行く途中で、アスファルトすれすれに飛んでいた蝉)

しんにゅうしゃのみを照らすと思いきや 狗尾草をかき分ける猫
(うちの玄関にある、何かが動くと灯りの点くセンサー)

「資源循環の早い竹を使用しています」竹のこころはどこ?

常に見逃す電球の直列接続片方消ゆその瞬間を

蛍光灯の糸昇った先にある あたしの放した悪意どもが

L⇔R 「Red & Blue 」より
想いの地遠くなりけり宵闇に きみのまなざし黄昏に燃ゆ

ひとひらの雪ひとひらの泪 ひとひらの君のみ胸に宿して

失礼いたしました<(_ _)>

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2022年8月7日
読了日 : 2022年8月5日
本棚登録日 : 2022年8月4日

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コメント 6件

まことさんのコメント
2022/08/07

たださん。こんばんは♪

いつも、いいね!ありがとうございます。
たださんは、短歌がお好きらしいと、思っていましたが、創作とは、凄いですね。
私も、昨年から、短歌を読み始めましたが、創作なんて、とんでもないです。
どの歌も、独創的だと思いましたが、最後の「ひとひらの雪~」という歌がとても、素敵だと思いました。

5552さんのコメント
2022/08/07

たださん、こんばんは!

すごい!一度に何首も!
私も最近、短歌っぽいものを作ったりしてますが、一首作るのにヒイヒイ言ってます 笑
たださんのレビューは、言葉の選び方や、文章の息継ぎの仕方に個性があって素敵なのですが、短歌も個性的ですね。
気になったのは蝉の〜の短歌。
実はたださんの恋の行方が気になっていたので、この短歌はどういう意味??とザワザワしています。

たださんのコメント
2022/08/07

まことさん、こんばんは♪

そういえば、コメントでは初めましてになりますね。嬉しいです(^_^)

それから、フォローして下さって、結構長いと思うのですが、こちらこそ、いつもたくさんのいいねを、ありがとうございます。

私の場合、短歌が好きというよりは、おそらく穂村弘さんが好きなのだと自己分析しておりまして(笑)

ただ、それでも最近、穂村さんのエッセイや本書によって、彼以外の個性的で素晴らしい歌人に出会う機会も増えまして、短歌がこんなに詠む人の想いを丁寧に込めたものだとは思わず・・それで、自分も日常で感じた気持ちを込めて書いたら、どんな気分なのだろうと思い、作ってみました。

ちょっと重苦しい書き方になりましたが、作っているときの気分はとても楽しくて、31文字でどうまとめるかの言葉探しもそうですし、短歌は季語を気にしなくていいので、そこが気楽でいいなと思いました。

「ひとひらの雪~」、素敵なんですかね。ありがとうございます。私の好きなバンドの好きな曲の歌詞から、想いを巡らせて書いてみたのですが、これは夢中になりますよ・・ただ、八首くらい作ってボツにしたり、掲載している歌も、何回か語順を変えてみたりしまして、こうしたところは、本書で穂村さんが教えてくれたので、実際に短歌を作る指南書としても、いいと思いました。

たださんのコメント
2022/08/07

5552さん、こんばんは!

コメントありがとうございます(^_^)

一度に何首もといっても、実は結構期間をかけてまして、本書を登録してから、なかなか感想が現れないのはそうした事情なので、正直、感想と共に、自分の歌をどうしようという悩みも大きかったです(^_^;)

文章の息継ぎの仕方に個性があるとは、初めて言われましたが、個性があって素敵とは、とても嬉しいです(単に、文章構成の基本を知らないだけかもしれませんが)。
ありがとうございます(^_^)

蝉の歌、気になりますか?

はい、そうです。片想いは消滅しました(^^;)

私が奥手なのが、幸か不幸かは分かりませんが、これまで知らなかった、相手の新たな一面を知っていくにつれて・・・みたいな感じですかね。

というわけで、「蝉よ持ってけ!」みたいな想いと、低空飛行が見るからに辛そうで、精神的に重いもの背負ってるのかなという妄想とで、作ってみました(^^;)

5552さんの歌、ヒイヒイ言った末に、とんでもない歌が完成しそうな予感がしており、とても楽しみです。
完成したら、是非教えて下さいね(^_^)

5552さんのコメント
2022/08/08

たださん、お返事ありがとうございます。

そうですかー。
恋心が消滅しましたか…。
お相手の方は惜しいことしましたね。

たださんの片思いの行方を知ることができてよかったです。
ザワザワが治まりました。
教えてくださり、ありがとうございます。

ひえー、ハードルあげないでくださいぃぃ。
プロの方や他の方の才能あふれる短歌に触れると、自分の凡人さ、才能の無さが際立ちますね。当たり前ですけど。

ほむほむはエッセイとか対談しか読んでなくて、歌人としての凄さにピンときてないところがあるので、いつか歌集をよんでみたいです。



たださんのコメント
2022/08/08

5552さん、返事のお返事ありがとうございます。

ザワザワが治まって、ほっとしております(^_^)
それから、慰めのお言葉、ありがとうございます。

その影響なのか、最近、以前好きだった音楽を、また聴いたりしております(本もそうですが、音楽も慰めになるのですよ)。

ほむほむの歌人としての凄さは、やはり、第一歌集の「シンジケート」が衝撃的で、若さ・怖さ・美しさ・切なさ、何でもありの素晴らしさだと思います。

私は歌集~エッセイという流れで読みましたが、逆の順番だとあまりのギャップに驚かれるかもしれません。

何やらハードルあげてしまったようで、ごめんなさい(^_^;)
私も改めて、自分の感想を読んでみると、石川啄木や若山牧水等の名歌の後に自分の歌があって・・・思わず、「はぁー」とため息出ますね。当然ですけど。

ただ、そんな時にこそ、本書を読んでみるのはいかがでしょう?

本書には、穂村さんと神谷きよみさんとのメールのやり取りで、神谷さんが作った短歌を、穂村さんが添削するコーナーがあるのですが、神谷さんの歌が少しずつ直されていく過程は、私みたいな初心者にも分かりやすくて、お薦めですよ。

また、感想でも少し書きましたが、穂村さんが他の歌人の名歌を分析しているコーナーを読まれると、歌人穂村弘さんの凄さを実感できますし、穂村さん自身の歌も自己分析しているので、併せてお薦めです(^_^)

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