そらいろのたね

  • 福音館書店 (1967年1月20日発売)
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感想 : 277
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 中川李枝子さんと大村(山脇)百合子さん姉妹による、1964年発表の本書は、爽やかなタイトルと結び付いた、夢のある楽しい展開の一方で、大人の私からは、中川さんの毅然とした、愛がある故の厳しさも感じられたことが、より印象深かった。

 きつねの宝物である「そらいろのたね」と、彼が欲しがった模型飛行機を交換してあげた男の子「ゆうじ」が、早速それを庭に埋めて、毎日水をあげていたら、土の中から出て来たのは、植物の芽ではなく家であり、しかもそれは次第に大きくなっていくにつれて、実際に住めるようになり、そこに様々な動物や鳥や子どもたちが遊びに来る中に、これまでの彼女らの作品、「いやいやえん」や「ぐりとぐら」のキャラクターも登場するといった、ファンならば大喜びするであろう、その大盤振る舞いの粋な計らいが、却って、この後に訪れる白けたムードを、より際立たせているのが、何とも私を切なくさせる。

 おそらく、これが大人と大人が引き起こした物語であれば、実際に物は返しているし、本来は自分の物であるわけだから、世の中にはこのような人もいるんだという形を以て、このまま完結する可能性もあると思われるが、それを許さないのが、中川李枝子の持つ一つの作家性であり、人間性なのだと思った、それは「いやいやえん」でも感じられた、彼女が真剣に望む、子どもたちの未来像なのかもしれない。

 勿論、単なる教訓ものとして、こういう人になってはいけませんよといった、やんわりとした意味合いもあるとは思われるが、私はそれだけとは思えなかった、そこに含まれていた思いは、人も動物も鳥も全てがありのままに共存していくための、ひとつの理想的世界の在り方を、その空色の家に託しているとともに、子どもたちにはそうした気持ちを持って大きくなってほしいといった、そんな願いが込められているような気がしてならず、それをゆうじの、どんな子どもも動物も鳥も分け隔てなく、変わらぬ気持ちで歓迎する姿に表していたのだと、私は思う。 

 そして、愛がある故の厳しさと書いたのは、そうした事をしてしまった者に対して、何かしらの罰則を与えるのではなく、現実をそっと教えてあげるだけの形にしているところにあり、こうした愛嬌のある「残念でした」的な終わり方には、中川さんの優しさを感じさせながらも、そこには彼女の望む世界の在り方に対して、決して妥協はしないといった揺るぎない強い意志も垣間見え、それが子どもたちへの温かい眼差しと重なって見えた、彼女の作家性に、私は何とも言えない、胸に迫るひしひしとしたものを感じられたのであった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本
感想投稿日 : 2024年4月3日
読了日 : 2024年4月3日
本棚登録日 : 2024年4月3日

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