インターネットのカタチ―もろさが織り成す粘り強い世界―

  • オーム社 (2011年6月25日発売)
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インターネットはもはや名実ともに世界の通信インフラだが、「全体を管理している組織」はどこにもない。
誰も管理していないから、情報(仕様・プロトコル)はオープン。
インターネットがどこかで壊れても、オープンな情報をもとに世界中の技術者が調査し、対応する。
電気、水道、ガス、電話、金融など、国が主導してきた他のインフラとは決定的に成り立ちが違う、ある意味とても「民主的」なもの。
そのインターネットを支える技術、プレイヤー、金の動きを解説してくれたとても面白い本。
一応ネットワーク技術をかじった(CCNPまで)からそこそこは読めたが、前提知識ないとちょっときついかもしれない。

JANOG行ったり設備設計をしたりしていた先輩方は、こういう世界を見ていたのだな…と今更ながら感じた。
周りにCCIEホルダーがうじゃうじゃいたが、あれは本当は稀有な状況だったんだな…。
インターネットサービス(コンテンツじゃなくインフラ)の最初の方の立ち上げやった人絶対面白かっただろうな~。
技術面だけじゃなくコマーシャル面やリーガル面も。

インターネットは、オープンであるという文化が面白く、私もそこに惹かれる。

インターネットは壊れるが、治る。
筆者はそのしなやかさに焦点を当てて好意的なスタンスから書いているが、
同じ題材をもとにまったく逆の主張(インターネットは危険である等)もできるだろうという。
このバランスの取れた筆者のスタンスが私は好きだ。


■インターネットの「標準化」
インターネットが今の文化なのは、IETFの存在が大きい。

ITUやISOによる標準化は de jure standard (法律上のstandard)。
・トップダウン方式。遵守しなければならない標準。
 ※ISOは仕事でも扱うことあるが…。
・会員以外には情報を公開しない。たとえば動画フォーマットなどは、仕様が公開されておらず、
 これに準じた製品を作りたくばコンソーシアムに入会し資料を購入しなければならない。

一方、IETFによる標準化は、de facto standard(事実上のstandard)。
・市場で主流に?なったもに対し、「みんなこれ使ってるからこれに合わせた方がイイよ」という性格のものであり遵守を求めない。
・会員でもない一般人でも議論に参加、標準を提案することができる。議事録も公開されている(追うのは大変だが)。
 仕様(プロトコル)が公開されているから、一般人でもインターネットに接続できる機器を開発できる。
・IETFで策定する文書=RFC Request For Comments = 意見募集 ⇔ 標準。
・Rough Consensus & Running Codeを重視。
 独裁でも、多数決でもなく、実用的なものを作ることを目指す。
 ※このIETFの思想自体は素晴らしいなと思う。
・OSI(ATMの標準化をした)が淘汰されTCP/IPが勝ったのもこういうインターネットの文化による。
・会

とはいえ、IETFも現在は巨大化し、エンジニアの政治の舞台になってしまうこともある。
オープンであるとはいっても、標準化に向けてのハードルは有利・不利があり、誰でも簡単に標準化
できるということではない。
(何度も参加しなければ実際の議論には入れない→資金力のある大企業社員が有利、
 IETFコミュニティ内で「顔が売れている」人の発言が重みをもつなど)



IETFと特許



■通信の制限
インターネットに国境はないというが、政治的な国境はある。
エジプトが政府の意向でインターネットから離脱したことがある、中国の「万里の長城」(ネット検閲)、ブロッキング…など。
こういう理由で、インターネットが壊れてしまわなければいいが…。


■事業としてのISP
「インターネットの大動脈」とでも呼ぶべきTier1を握ることは、そのまま他ISPから
トランジット(=相互接続費用、通行料って感じ)でお金が入ってくることを意味した。
(だから昔のソフトバンクはSprintを買ったのかな?)
同じくらいの規模の相互接続数を持つ者同士であれば、お互いピアリングして、お互いのトラフィックを融通しあってあげる平等な関係になれる。
しかし、相互接続数が少ないISPは、相互接続が多いISPと接続したいが、逆の立場からは相対的にメリットが少ない。
よって、小規模なISPから、大規模なISPへのお金の流れが発生する。
この均衡が崩れるとピアリング=インターネットの構成が変わる。Level3 vs Cogentなど。

ただ、最近はTier1キャリアではない、コンテンツを持ったHyper Giants(Google, Comcast,Amazonなど)が自前ネットワーク・相互接続を持ち、大動脈になりつつある。

ISPに勤めている人間としてはここが一番面白かった。
Tier1でさえ、Tier 1であるというだけで収益を確保するのは難しくなってくるんだろうな、と。
他のISPからすれば、規模の小さなISPと相互接続するメリットは少ない。
BGPの経路数も、トラフィック(動画)は増える一方、大規模設備投資ができる体力のあるISPが生き残るだろう。中小は買収されるかも。
Tier2以下のISP事業の厳しさたるや……。

「BGPのASパスはお金であるといっても過言ではない」
「発明当初のインターネットは純粋な技術の塊だったが、稼働しているインターネットは経済活動と切っても切れない。
技術的な合理性よりも経済的な駆け引きが全体の構成に大きな影響を与えることもある」とは筆者の言。



■インターネットの形をとらえる:
「インターネットの形」を、公開情報から一般人が調査できるのもインターネットの面白さ。
その方法をいくつか紹介してくれている。

・「帰り」の経路探索
 tracerouteのみだと、「行き」の経路しか探索できないのだが、
 「帰り」の経路探索の方法として紹介してくれているのが「reverse traceroute」。知らなかったので面白かった。 

・AS Lookup
 IPアドレスからAS番号を表示する機能 (tracert -aオプション)
 Windows 10 ではできませんでした~orz

・BGP Toolkit:組織のAS番号・アドレスブロックを調べる
 所有しているAS番号・アドレスブロックが多いほど、インターネットインフラの多くを占めているといえる。
 なお、企業名そのままで登録してあるとは限らない(買収元企業の名前のままかも等)
 GoogleのAS数は、本に掲載の11個から、現在では20数個に増えている様子。
 Amazonは15個。
 NTT Communications(日本法人だけ)だと18個。海外法人含めたらもっと。KDDIは15個。など。

・Routeviews BGPlay
 任意のASに注目したAS間接続を調べられる。

・CAIDA 「AS Core Map」:ASトポロジをとらえる
 ノード=AS。中心からの距離が短いほど、AS間接続の数が多い(=インターネットの「動脈」である)。
 この本に掲載されている2010年時点の情報と見比べてみたら面白いだろうと思い、調べてみた。

 ・IPv4=中心にいるプレイヤーはそう変わってはなさそう。
  Googleとかど真ん中にいそうなのにいないのはなぜなんだ?公開してないのかな?
  Level3, Cogentが中心に近いのは分かるとして、NTT America(!)、Telecom Italiaあたりが近いのは何なのだろう…。
  NTT Communicationsが見当たらないので、NTT AmericaがNTT Communicatoinsの代わりなのか?
 ・IPv6=IPv6のAS間接続が2010年から大幅に増えていることがわかる。
  かつては南米、中東、インドにはほとんどノードがなかったが、ぽつぽつ増えている。面白い!

・BGPmon 「IPv4/v6 weathermap」: 国別のインターネットの「大きさ」をとらえる
 「プレフィックス数が多い国はそれだけ多くのISPが存在しているといえる」とのこと。なるほど。
 →この本の創刊2011年当時から実際に見て比べてようとしたが、アカウント登録しないと使えないようだ。
  リアルタイムな故障状況を公開しているページ(BGP Stream)もあった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 通信
感想投稿日 : 2020年5月28日
読了日 : -
本棚登録日 : 2020年4月8日

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