風をつかまえた少年

  • 文藝春秋 (2010年11月19日発売)
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ウィリアムが生まれ育ったマラウイを地図で改めて確認すると、アフリカ大陸の南東部にあって日本の3分の1ぐらいの広さ。農業が主で、8年制の小学校まで授業料は無償だけど、中学校(4年)に進学するには学費がいる。就学率はわずか15%!
14歳のウィリアムの家はたばこ産業に土地を売り渡す隣人もいる中で、実直な父親は主食メイズ(トウモロコシの一種)の栽培を続けている。母は裕福な家の出身だったが生真面目な父を愛していた。姉は貧困の中で大学進学を目指している。
ウィリアム自身も家計状態から察して中学進学は無理だろうと案じていたのだろうか、ベッドの上に中学校の制服を発見した時の喜びようは一瞬過剰に映った。でもそれは中学進学は当たり前となっている日本に育った私だからだろう。国の経済格差に唖然となるが、新聞などを読むと日本も無縁な話ではないのかもしれない。
暗くなると勉強ができないので、友人とゴミ捨て場で工場が廃棄した部品や明り取りの燃料を探す。しかし、ついに旱魃で不作が続き授業料が払えなくなる。ウィリアムはせめて独学するために図書館の使用を願いでる。
たびたび旱魃に襲われ村は飢饉に見舞われた。
そんな中でウィリアムは電気を発電する風車を考案する。(当時の電気の普及率は2%だったらしい)。ペダルを漕いで点く自転車のライトにヒントを得て、風車で発電し、モーターを回して地下水を汲み上げ畑に水を送るのだ。
その風車を造るためには父の自転車が必要だった。ウィリアムは父に懇願する。しかし、父は中学の子供が考えた程度で灌漑ができると信じられない。賢いとはいえしょせん子供の遊びだろうと誰だって思うだろう。自転車は車のような存在で貴重なものだったに違いない。
ウィリアムは素直で良い子だった。私だったら、無学の父親に何がわかるかと反抗するだろうなぁ。父の言いつけを守り、トウモロコシをつぶしたような主食に湯がいた野菜が添えられた粗末な1食で、父の更に土地を増やす尾根開墾の方針で重労働を強いられた。しかし万策果てウィリアムの提案が受け入れられた。村に残った人々と協力して手製の風車がついに完成する。
村が飢饉に襲われ困窮したのは何も天候のせいばかりとはいえない。食料を提供してもらえないので、政府に援助を申し出た族長は袋叩きにあい致命傷を負うシーンがあった。不安定な政権も背景となっている。
日本で贅沢に暮らしている自分の在りようを顧みずにはいられない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 映画
感想投稿日 : 2019年9月14日
読了日 : 2019年9月11日
本棚登録日 : 2019年9月11日

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