贅沢貧乏 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

著者 :
  • 講談社 (1992年7月3日発売)
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本棚登録 : 1195
感想 : 69

この作家の著書には高校の頃から親しんでおり、このエッセイのことも知っていましたが、独特の世界を築き上げた彼女の小説の、現実離れした硬質デカダンなイメージを、作者の現実を知ることで壊したくなかったため、読まないままに今まできました。

主人公である自分を客観的視線から善も悪もなく描いており、かなり小説的コーティングがされていると感じつつも、その質素な生活ぶりは凄味を感じるほどに徹底しているため、現実ベースに描いているということがじかに伝わってきます。

年に1冊小説を書き、その原稿料でつましく生きているという、昭和30年代の著者。
森鷗外の娘であり、かなりの耽溺文学の著者であるため、お金持ちの道楽趣味として、てなぐさみに物語を書いているかと思っていましたが、実際には生活のためにイヤイヤ小説を執筆していると知って驚きました。

どんなに困窮していても、生まれついての裕福な生活スタイルを崩しきることはできないようで、貧しい中にも惨めさにどっぷりとつかりきらない、良家の子女の凛とした矜持のようなものが、常に彼女の中に存在しています。
1日300円の食費の中で、100円を舶来のチョコレエトに使っているというところが、やはり見事に現実離れしたお嬢様。

想像と妄想のつたが深く絡まった深い森の中のお城で暮らす永遠の姫だなあと思うことしきりです。
夢見がちの少女が、そのままのピュアな心で、ハードボイルドな現実を生き抜いていく方法が記されているような一冊。

彼女のような夢見ながらも腹を据えた生き方は到底無理ですが、ぼんやりと物思いに耽って過ごすところなど、私もそれなりに彼女に近い面があるため、完全に他人ごとに思えないまま、はらはらしながら読みました。

とても貧しい生活様子を書き連ねてありながら、その徹底ぶりと妄想の素晴らしさ、揺るぎない誇りの高さに、哀れさや嫌悪感は抱きません。
他人の目を気にしない強さと妄想力の完璧さが、彼女の生活と小説を作り上げ、まさに『贅沢貧乏』を生み出しているというわけですね。

『桜の園』を追われた『斜陽』族の彼女が、その妄想力を一本刀として、世間の荒波をやりすごしていく様子に、誰も真似のできない非力の強さを見ることができる、独特の牽引力のあるエッセイとなっています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ・対談
感想投稿日 : 2011年12月6日
読了日 : 2011年12月6日
本棚登録日 : 2011年12月6日

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