1895年、日本の公使と浪人たちが朝鮮の王宮に乱入、王妃を殺害した。まさに野蛮としか言いようのない暴挙。この史実を初めて知った時にはとても信じられず、なぜこんな重大事件を学校で学ぶ機会がなかったのかと愕然としたものだ。
本書は、日本人の多くが知らないこの王妃殺害事件に至る経緯を日韓の資料からまとめあげた力作である。大院君と熾烈な権力闘争をくりひろげた「悲劇の王妃」の生涯は実際、ドラマのように波乱万丈興だが、作家の筆は一貫して冷静だ。王妃を美化したり、個人間のドラマに矮小化することなく、朝鮮への利権をねらって相争う日中露、腐敗した朝鮮王宮内部で権力闘争にあけくれる個人の、マクロとミクロの権力関係を実に見事に浮き彫りにしている。
作家は、王妃殺害は日本政府が直接計画・関与したものではないとの結論をみちびいているが、日本の公人と民間人が一緒になって類のないテロリズムを引き起こした背景に、日本の官民に共有されていた驕りと朝鮮への侮蔑視、民衆の無知、そして「国益」のためならば何をしても許されるといった思考が存在していたことを、冷静にみつめている。
本書は刊行当時ベストセラーになったというが、今の日本に本書をきちんと受け止めることのできる余裕はあるだろうか。「愛国無罪」というテロリズムに通じる心情を育てるものの正体をみつめる必要は今こそある。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
歴史と社会
- 感想投稿日 : 2012年10月27日
- 読了日 : 2012年9月24日
- 本棚登録日 : 2012年10月13日
みんなの感想をみる