彼女たちの売春(ワリキリ) 社会からの斥力、出会い系の引力

著者 :
  • 扶桑社 (2012年11月29日発売)
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感想 : 44
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宮台真司なんかが盛り上げてしまった「性的自己決定」vs「女性に対する暴力」論からここ20年、売春に関する議論は、ひどく不毛な状況が続いてきた。「被害者」への同情論か、フェミニズムをまったく理解してない風俗ライターばっかりの中で、実態調査にもとづいて現実的提言をおこなう、たいへんにまっとうな本。はっきりいって、自分の業績のために体裁をととのえ適当な分析を披露してみせるそこらの学者の本よりは、よっぽど役に立ちます。
 出会い喫茶やテレクラを利用する100人以上の「ワリキリ」女性とのインタビュー調査からうかびあがってくるのは、貧困、精神疾患、暴力被害、自己尊重感や安定感の欠如・・・正直、読んでいて辛くなることもあった。
 しかし著者は、売春を彼女たちの「心の問題」や社会の病理に還元したり、救済されるべき被害者扱いすることを慎重に避け、かわりに、いわゆるまっとうな社会の側が彼女たちを排斥する要因と、売春の世界が彼女たちをひきこむ要因とを注意深くとりだし、かつ、そうした個々の要因のくみあわせのなかで選択をおこなう女性たちの主体性を決して軽視しない。
 売春という「社会問題」に大ナタをふるうのでなく、「n個の排除の数だけ、n個の包摂を。買春男に彼女たちを抱かせることをやめさせたいなら、社会で彼女たちを抱きしめてやれ」という提言は、まったく、ほんとに、まっとうだ。売買春を一発で解決する魔法の弾丸なんか存在しない。ていねいに、自分たちの問題としてかんがえていくしかないのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史と社会
感想投稿日 : 2013年4月17日
読了日 : 2013年1月17日
本棚登録日 : 2013年1月24日

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