あまりにも騒がしい孤独 (東欧の想像力 2)

  • 松籟社 (2007年12月14日発売)
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本棚登録 : 396
感想 : 37
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イジー・メンツェル監督の映画は大好きだけど、フラバルの原作を読むのはこれがはじめて。
共産主義体制への大きな変動の中で、地下の作業室送りになった男は、発禁処分とされた本(なかには印刷されたまま一度も人の目に触れないまま廃棄される本もある)を、来る日も来る日も、ネズミやハエと一緒に押し潰して塊にする作業を続けている。塊の中心部に美しい言葉を閉じ込め、その周囲を美しい複製画で飾りながら。
「心ならずも教養を身に着けた」主人公は、本への暴虐行為を行いつつも、本に対する限りない愛情をもってその破壊をオブジェとし、救い出した美しい言葉を蒐集しつづける。グロテスクさと美が混然とする中、つねにビールで酔っぱらっている主人公の脳裏を訪れるのは、過去の恋人たち、地下室を訪れるジプシー女たちのトルコ石色のスカート、老子とキリスト…まるで破壊され圧縮された本のように、混迷しながらも濃密な文章だ。
しかし、本を葬る行為さえもが圧倒的な近代的機械と近代的な人間たちの前によって不可能とされるのを目の当たりにし、本がただの物質に還元されていく世界が不可避であることを悟った主人公は、自らを本とともに押し潰し葬ることにする。その直前に主人公が幻視する、プラハの街そのものが押し潰されていくイメージは圧倒的だ。近代化、あるいは近代化とともにもたらされた何かは、砲弾さえもなしえなかった破壊をもたらすものであったのか。言いようのないイメージと哀しみが後に残る。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 外国文学
感想投稿日 : 2017年6月18日
読了日 : 2017年5月18日
本棚登録日 : 2017年6月18日

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