ぼくには数字が風景に見える

  • 講談社 (2007年6月13日発売)
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 知的な能力に障害がある人が、数学や芸術のある分野で天才的な能力を示すことがある。いわゆるサヴァン症候群とは、カレンダー能力(何年先、何年前の特定の日が何曜日かを一瞬で言い当てる)や、驚異的な記憶能力、計算能力などを示す「知的障害者」のことだ。
 いままでサヴァンがいくら天才的な能力を持っていても、知的な障害のために自分の頭の中で何が起こっているのかを「説明」することができなかった。ところがダニエルは、自分の考えること、感じることを説明できる、貴重なサヴァンなのだ……って、それただの天才じゃないか?
 しかし彼はやはり「ただの天才」ではない。やはり自閉症的な傾向があり、コミュニケーション能力や感状移入に問題を抱えている。しかも共感覚(数字のひとつひとつに形が見えるんだとか)の持ち主でもある。その彼が、生きにくさを感じていた幼少時代から、青春時代を経て、いまに至るまでの半生をつづったのが本書。
 天才少年の自伝なんて、なんか鼻持ちならない感じがあるんじゃ……というのは杞憂だった。自閉的でいじめられっこだった少年が、自分の能力を頼りにじょじょに世の中へと踏み出し、人を愛し、自分を開いていく成長物語として、すごく素直に読んでいける。数字や文字が、色だけでなく形、質感、動きなどをともなって感じられる、それが驚異的な彼の数学・語学の能力と関係している……というくだりは、サヴァンの能力を説明するものとして貴重だし、「当事者」としての説得力にあふれている。彼はこの能力を生かして、円周率を小数点以下2万桁まで暗唱したり、難解で知られているアイスランド語をわずか1週間でマスターしたりする。その能力を研究したいという学者との出会いも描かれているが、それがサイモン・バロン=コーエンやら、V・S・ラマチャンドランやらという豪華さだったりして。
 カバー見返しに著者近影がある。穏やかで物静かそうな、ちょっと神経質で気弱そうな、でも笑顔に魅力がある若者の写真だ。彼の今後の人生も、実り多いモノでありますようにと思わず応援したくなる。チャーミングで、わくわくする、そして発見もあるという、お得な一冊といえるだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2014年3月29日
読了日 : 2008年3月29日
本棚登録日 : 2013年5月19日

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