天正壬午の乱

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  • 学研プラス (2011年2月16日発売)
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4

天下の行方は「天正壬牛」に原点あり
本能寺の変によって生じた東国空白地をめぐる騒乱
「本能寺にて信長死す」の報は、東国にも瞬く間に伝わった。
徳川・北条・上杉が、旧武田領を確保すべく触手を伸ばす。
かたや真田をはじめとする国人衆も勢力を拡大すべく躍起となる。
戦国期にも稀有な大躍進のチャンスに各陣営はどのように動いたのか。気鋭の研究家が送る「天正壬午の乱」に関する初の本格論考。 (2011年の刊)
 第一章 武田勝頼滅亡と本能寺の変
 第二章 各勢力、動き出す
 第三章 三者鼎立
 第四章 戦乱終結へ

買ったものの厚さに仰け反り積読状態でした。今回、意を決して読んでみましたが、めちゃくちゃ面白く一気に読みました。
現在、新刊では入手困難のようですが、もし本書を見かけたらとにかく購入する事をお勧めします。
内容が素晴らしいのはもちろん収録されている地図が素晴らしいです。
さすが歴史群像シリーズで培った学研クオリティーと言えます。 (地図製作、データアトラス株式会社とあります。)

あとがきで「徳川中心史観に与しない」とありますが、本書を読むと徳川家康が甲信を掌握したのは必然では無い事が解ります。
本能寺の変により、関東甲信地域の織田体制がリセットされ、徳川、上杉、北条の争いの場とかします。上杉景勝は北信を押さえますが、本国越後における新発田の乱のためそれ以上に領土を拡大することが出来ません。家康は順調に信濃を攻略しますが、酒井忠次の失策により従属した国衆の離反を招きます。北条氏直は大軍を擁し信濃に侵攻しますが、優柔不断(当てにしていた春日信達の内応が露見し誅殺されたことが原因ですが、大軍の割に戦意が乏しい気がします)によりチャンスを生かすことが出来ず、甲州へ転進します。

家康の甲州攻略は順調に進み武田旧臣を掌握します。(恵林寺再興を約束するなど人心掌握につとめます。)
甲州での戦いは、北条方の失策などにより戦線は膠着状態となり大軍の補給に苦慮した北条側は和睦の道を選びます。

こうした3巨頭の争いの間隙をぬって、木曽、小笠原、諏訪、真田などの国衆が生き生きと活躍するが、信州人としては痛快です。
私的には、木曽が頑張っているのと、非常にマイナーな下条氏の大活躍が良かったです。それと家康に忠誠を尽くす依田が健気。

家康の甲信侵攻が、織田政権の承認のうえに行われていること。織田政権による援軍の派遣が予定されていたこと。木曽義昌の後ろにも織田政権の影響がうかがえることなど、本書は読みどころ満載です。

残念なのは、参考文献一覧がないところです。ページの都合で省略したとのことですが、非常に残念です。(文中には史料名があり、各章の最後に資料の注釈があります。)

「天正壬午の乱」という視点から戦国史を一歩進めた大事な研究の成果と言えます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史(戦国)
感想投稿日 : 2013年8月11日
読了日 : 2013年8月11日
本棚登録日 : 2012年8月16日

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