まことさんのレビューを見て、読んでみました。
大阪船場の旧家、薪岡家の四姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子。両親は何年か前に亡くなり、長女鶴子夫妻が本家として一家を仕切っている。本家の旦那(婿養子)は、三女の雪子や四女の妙子に疎ましがられているので、雪子、妙子は本家よりも、芦屋の幸子夫婦の家に居着いている。
時代は昭和の初め、戦争前。雪子(30歳くらい)と妙子(25歳くらい?)はまだ独身。妙子には結婚を約束している恋人がいるが、姉の雪子を追い抜いて先に嫁ぐ訳にはいかない。雪子は美しく、年齢よりもかなり若く見えるが、何故か縁遠く、結婚がなかなか決まらない。良家のお嬢様であるので、条件が難しく、良い話があっても、本家の綿密な調査により何か相手に問題が見つかり、断ることになってしまうのだ。上流階級のお嬢様も大変だ。羨ましくもならないが、戦争前の喧騒を他所に、おっとりした優雅な美しい世界。長女は「姉ちゃん」、次女は「仲姉ちゃん(なかあんちゃん)」、三女は「雪姉ちゃん(きあんちゃん)」、末の娘は「こいさん」と呼ばれている。
毎年、幸子一家と雪子、妙子で京都へ花見へ行く恒例行事がある。その日のために彼女たちは選りすぐりの着物を用意して、平安神宮、嵐山、御室など、京都の桜の名所を巡る。桜は勿論美しいが彼女たちの姿も目を見張るくらい美しく、「写真を撮らせて下さい」という人が必ずいる。幸子は思う。来年もここでこうして、三姉妹で桜を見られるか?と。雪子と妙子が娘さん(とうさん)でいてくれる間はこのように三人揃って桜を見られるが、二人が嫁いだらこの行事はなくなってしまうと。二人の行く末(特に雪子の)を案じながらも、二人が娘さんでいてくれる時を惜しんでいる。
下巻の解説を読んでみたら、三島由紀夫が「谷崎潤一郎は戦争の影響を受けていない唯一の作家で、源氏物語の世界を現代に蘇らせた人」というようなことを言ったとか書いてあったが、なるほど、源氏物語の世界と同じで、滅びゆく上流社会の美しい世界を文学という形で残して下さったのだと思う。
感情が揺さぶられる類の小説でもないし、続きが気になるタイプの小説でもないと思いながら読んできたが、終盤になって少し続きが気になり出した。本家の旦那さんが東京に転勤になり、大阪の本拠地がなくなったのだ。東京に引っ越した本家。慌ただしく見つけた借家は手狭で、呼び寄せられた雪子の部屋もないほどであるが、丁度親の財産も尽きてきて、「蒔岡家」の名前も通っていない東京で上流家庭のプライドを通して暮らす必要もなく、世間並に節約し、中流家庭のような暮らしを始めるようになり、雪子たちのことにもうるさく言ってこなくなった。
雪子の縁談がまた破談になった。見合いを口実に神戸に帰ってこれた雪子もまた、東京本家に戻らねばならなくなった。時代の変わり目、この先、雪子は?蒔野家は?どうなるのだろう。
中巻に続く。
- 感想投稿日 : 2021年5月3日
- 読了日 : 2021年5月3日
- 本棚登録日 : 2021年5月3日
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