大阪の名門、蒔岡家の四女(こいさん)妙子は活動的。28 歳で人形作家として一角の人物になっているだけでなく、日本舞踊にも熱心、さらに洋裁を習い、将来は洋裁で身を立てたいと密かに思っている。
自称妙子の許嫁である、同じく大阪のお坊ちゃん、奥畑啓三郎は(蒔岡家から正式に許嫁と認められていないが)、妙子が洋裁なんかで身を立て、職業婦人となることを辞めさせてくれと、仲あんちゃん(次女)幸子に掛け合う。
幸子が妙子に聞いてみると、啓三郎は、ぼんぼん育ちで、財産をすぐ使い果たしてしまうことは分かっているので、自分が家計を支えたい。そのためにフランスへ行って洋裁の勉強をしたいという。戦前に、妙子はなんてしっかりしているのだろう。四姉妹の中でも両親が二人とも早く亡くなってしまった末っこの妙子は姉たちと考え方が異なる。
それに引き換え、何も出来ないボンボン啓三郎や本家の旦那の「職業婦人」を軽蔑した態度にはイラッとくる。まあでも、この時代勿論保育制度なんて整っていないし、上流階級でなくても、「主婦」か「職業婦人」かの二択だったのだろうな。
妙子だけではなく、主婦の幸子も魅力的だ。考え方は妙子と異なり古風だが、一人娘を育てている他、二人の妹のことも母親替わりに面倒を見て、いつも二人の意見を尊重しながら、本家との橋渡しをしている。
だけど、妙子は旧家蒔岡家の中では進歩的すぎる。頼りない浮気症のボンボン啓三郎よりも、啓三郎の店の元丁稚奉公で、写真家の板倉と結婚したいともらす。板倉は洪水の時、命を掛けて妙子を救ってくれたし、一人渡米し、写真を勉強して「板倉写真館」を経営し、身を立てている。それに板倉なら妙子の生き方を理解してくれる。
板倉は少し馴れ馴れしいが男として魅力的だという妙子の気持ちに共感出来る。しかし、家庭環境が全く異なる育ち方をした人が義理の弟になるのは嫌だという、幸子や雪子の気持ちも分かる。妙子は熱意のまま突っ走る所があるのだ。
でも、まさか板倉とあんな終わり方をするとは…。板倉は運がなく、本当にいい人だったと思う。それに引き換え、蒔岡家の人々の冷たいこと。
妙子はどうするのだろう。私なら板倉のことが本当に好きだったのなら、三年くらいは立ち直れないと思うけど。
下巻に続く
- 感想投稿日 : 2021年5月15日
- 読了日 : 2021年5月15日
- 本棚登録日 : 2021年5月15日
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