こころ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 2440
4

 長い解説は読まずに書く。
 作者の意図を理解出来ているかどうかは分からないが、これは人間の原罪を描いた作品だな。
 Kという内向的な精神的に鋭く脆い友人を助けるため、自分の下宿に引き込んだ“先生”。そのために兼ねてから自分が思いを寄せていた下宿のお嬢さんを巡ってKと三角関係になり、“先生”の気持ちに気付かず、お嬢さんに対する思いを“先生”に打ち明けたK。“先生”は友人の告白を聞いて動揺し、あろうことか「精神的に向上心の無いものは馬鹿だ」とKを一番打ちのめす言葉で罵倒しておきながら、自分はそのすきに“お嬢さん”の母親と話を付けて、お嬢さんとの婚約に取り付けてしまった。
 酷いといえば酷い。けれど恋愛ってそんなものだ。
 そしてその後のまさかのKの自殺。Kの自殺は単なる失恋とか、“先生”への復讐とかそんなものではないだろう。もっと精神的に深いところで、理想と現実、理性と愛の矛盾みたいなところに失望したんじゃないかな。
 だけど、“先生”はその後ずっと罪の意識に苦しみ続け、世間の中で自分が認められるような何かも生計を立てるような何かもする気になれず、死んだつもりになって生き続けた。
 “先生”もKも真面目で理性的な善き人であったが、“先生”が本能的に愛を勝ちとったことで、Kを死に追いやって仕舞ったことも、あまりに自分だけに真っ直ぐすぎて失恋を機に自殺したことで、“先生”を生涯苦しめたKの行いも人間の“原罪”の成したことだと思う。
 どちらかというと前半のほうが面白く、語りてである主人公の大学生が何故廃人のような“先生”にそこまで惹かれたのか、“先生”はどうして何も仕事をしていないのに奥さんとまあまあ余裕のある生活を送ってられるのかというところが疑問であったが、そこのところの答えがないままだった。
 だけど、先生は時々ドキリとするような洞察力のあることを言い放つのが面白かった。例えば、主人公が「まだ恋は知らない」と言ったことに対して、先生は「あなたは物足りないから、私のところに来たんでしょ。」。「それは恋とは違います。」という主人公に対して、「恋に上る階段なのです。異性と抱き合う順序として、まず同性である私の所に動いてきたのです。」というセリフなど。
 こんなことを言って仕舞ってはオシマイだが、明治時代というと昔朝ドラで見た「おしん」のように生きることにただただ必死であった人も多かったのに、“先生”やKのように働かず、精神世界ばかりに生きていたこと自体は善であったといえるのだろうか。
 でもまあ、“先生”の遺書を読むと自分自身の胸がチクチクしたことも事実。やっぱり読者の原罪を背負って自ら罰したキリストのような人。
 高校の時の教科書にこの小説が部分的に掲載されていて、全く理解出来ず、唯一得意だと思っていた現国に自信が無くなってしまった。今読んだら分かるかなと思ったが、やはり難しい。
 高校の国語から“小説”が削除されるということを小耳に挟んだ。「そんなバカな」と思ったが、小説の解釈について正解を求めるような授業ならないほうが良い。だけど、接する機会は失わせないでほしい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年8月28日
読了日 : 2022年8月28日
本棚登録日 : 2022年8月28日

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