クローバー・レイン (一般書)

著者 :
  • ポプラ社 (2012年6月6日発売)
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小説って、それが原稿の時は作家のものだけれど、“本“にするという時点で、そこに携わる全ての人による“作品“になるんだね。
出版界のあるパーティで、今は売れなくなった、泥酔した作家を家まで送り届けた、主人公彰彦は大手出版社の若手編集者。その作家の家で、原稿を見つけた。
「どうしてもこの小説をを自分の会社で本にしたい。どうしても自分がこの本を作りたい」
熱い思いで「この原稿を預からせて下さい」と作家に頼む。「どうせ、君の会社では出ないと思うからダメならダメと早く言ってよ」と言いながら作家は預けてくれる。
彰彦の勤める出版社は大手で、売れない作家の本など出してくれるはずもない。編集長に推してみても、忘れられるくらい長い間、デスクの引き出しに眠らせられるか、その上の会議で簡単にボツになるかだ。そんなことなら、さっさと小さな出版社に原稿を渡して日の目を見たほうが、作家も幸せだ。
だけど彰彦はどうしてもその小説を自分が本にしたかった。何故なら、その小説は“彼自身“の小説でもあったから。
彰彦は熱意を持って、あの手この手で社内の人間を説得し、とうとう出版の決定がなされる。しかし、その先の道のりも大変だった。
まずはその小説の“要“である詩の作者である作家のお嬢さんから引用の許可を貰うこと。それから、せっかく出版された本が、平積みさえされずに返本ということを避けるために、営業と一心同体となって本屋回りなど、あらゆる努力をした。
本屋から「王子」と呼ばれているイケメン若手敏腕営業マンは「今をときめく編集者が首を掛けて作った本」などという触れ込みで、本屋のスタッフに印象づける。
本を作るのは作家と編集者とデザイナーと印刷屋などだけではない。「読者」に届けるという本の大切な役割を果たすためには、“営業マン“も“製作者“の一人なのだと思った。
他に、若手編集者たちによる「シロツメクサの頃」(その本のタイトル)をめぐる座談会が雑誌で企画してされるなど、「読んでほしい」と心から思う人たちによって読者に届ける戦略がなされ、「シロツメクサの頃」は重版された。
そして、彰彦はじめ、小説「シロツメクサの頃」を読んだ読者たち自身の小説の続きが始まった。
電子出版なら手間もコストもかからず、エコである。けれど、多くの人の手や足や頭や心を使って、なんとか完成する「紙の本」は、出来ただけで「ドラマ」、出来てからも「ドラマ」を産む。それくらい素晴らしいものだと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年5月19日
読了日 : 2023年5月19日
本棚登録日 : 2023年5月19日

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