秘太刀馬の骨 (文春文庫 ふ 1-30)

著者 :
  • 文藝春秋 (1995年11月10日発売)
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感想 : 80
3

1992年刊。
蝉しぐれのムック本にて、宮部みゆきが藤沢ミステリのおすすめ3作を紹介するなかにあったので、たまたま古本屋で見かけて読んでみた。(ちなみに他は、闇の歯車、ささやく河。)

犯人探し、というか、秘太刀である馬の骨という珍名の必殺技を授けられたのは誰か、を探る話。
江戸から来た、家老の甥である石橋銀次郎がそれを探れ、と家老に命じられ、同じく家老の密命を受け、銀次郎の案内人となった地元の武士、半十郎が書き手となる。

容疑者五名の各々と接触し、弱みを握り、なかば無理矢理、銀次郎と立ち合わせ、秘太刀を使うかを確認して行く。

五人の人物にある弱みはだいたい女性絡み。
もうちょっと違うネタも見たかったなと思うけど、封建制度の時代の姦通(というほどでもないが)はそれほど致命的なことなのかも。
そして、書き手である半十郎もまた重い家庭問題を抱えて、妻との間がうまくいっていない。
それらがうまくリンクしつつ、最後には藩政をゆるがす大きな事態が見えて来る…。という感じかな。

ミステリとして先が気になる話なんですが、前半はいろんな人物が一気に出てきて覚えられず、読み進めるのが大変だった。
下僕の死、から面白くなってきて一気に読んだ。

結末は、なあーんだ、って感じでしたが、出久根氏の解説や他のいろんな人の意見を見て、多角的な読み方ができると分かった。しかも連載時と書籍で犯人が明確に違うらしい…。ええー。
文庫でも、真犯人と目される人物の名を半十郎しか口にしないため、断定はできない、という。
なるほどねー。
エピローグは、私も、ワンチャンあるかも、と思っていた人物のことだったので、面白く読んだ。
まあそんなことは本当はないと思うけど、こうだったかもしれないよ、という匂わせた、含みのある終幕エピソードとして書かれているのでは。

銀次郎にはもっと裏があるのかと思っていたので、後半に潔く物語から消えてしまって残念だった。
彼こそ謎の人物だったのになあ。

五間川が登場するし、これも海坂藩が舞台なんですね。
蝉しぐれにはなかった、方言セリフが飛び交っていて面白かった。
全体に隠れた佳作といったところ。

追記
ここに登場する、金打を打つ(きんちょうをうつ)という言葉ははじめて聞いたので、あとで調べてみた。江戸時代に武士が刀を使って行う、キツめの約束げんまんかな、と思ったら、ほぼそのとおりでした。ひとつ賢くなった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年10月26日
読了日 : 2021年10月26日
本棚登録日 : 2021年10月26日

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