蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1953年6月30日発売)
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感想 : 480
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この文庫本だけで300以上も書評があるのは正直驚きである。これは新装された文庫版だと思うのだが、最近はそんなに読まれてる本なのか?!それくらい抑圧されてる感が強い世の中なのか?

蟹工船と、党生活者の二編からなる本だが、蟹工船は1920年代のカムチャッカ方面の蟹漁を行う漁船での生活を描いたもの。2014年の現代からさかのぼること100年弱,まさに近代日本の暗黒奴隷の話である。北海道は当時劣悪な労働環境で有名だったようで,蟹工船はその頂点(?)を極めるホラーな搾取環境であった。悪名高き炭坑の労働経験者でさえ、恐れ戦くほどの劣悪ぶりと書いてあった。陸から隔絶されているので助けを求めるのも無理。死んだら海に投げられるだけ。男だけの環境なので、若い労務者(年端の行かない少年たち)はオトナの男の性の相手をさせられる。病気になっても休めない。労働環境も栄養状態も最悪の近代奴隷。こんなところに4ヶ月も缶詰にさせられたのが蟹工船(船の缶詰工場)である。そこにおこったストライキ(サボ)の話である。しかし焦点はストライキではなくて、ストライキにいくまでの劣悪環境の描写だろう。これが映像を見てるかのように大変詳しい。読んでて自分の顔が歪んで行くのがわかるくらいである。小林多喜二は実際に船に乗ってたんだろうか?あの当時、ここまでの描写を書いたことはやはり驚くべきことだろう。
労働者がぼろ切れみたいにこき使われてずたずたにされた自尊心と劣等感を抱えながら、なお、視界を横切る海軍の戦艦に万歳するところとか、愛国心を砦に頑張る最下層の人々の単純さというか哀れさが漂っていて、ほとんど滑稽でもある。でも、これって今の私たちとあんまり変わらないかも・・・とはたと気がついてぞっとした。愛国心は、虐げられれば虐げられるほど注入しやすいものなのかもしれない。国が救世主のような形で、強大な姿(戦艦とか)で現れるとき、あまりに足蹴にされて虐げられてる人間には手が届かないからこそ眩しいものに見えるのだろうか。

蟹工船を読み終えて党生活者を読んだが、これはなかなか面白い「共産党員の青春」物語だった。労働者解放を願って日々、工作にいそしむ党員の物語なのだが、それでも彼の母親とのエピソードや淡い恋らしきもへの目覚めなどあり、暗い時代のストイックな共産党員の生活が、活き活きと輝いているように見える。小林多喜二は公安に捉えられて拷問にかけられて亡くなったそうだが、文学の力で人々の心に食い込もうとしたからこそだろう。それは要するに、作品が魅力に溢れてたからなのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説 古典 日本
感想投稿日 : 2014年5月27日
読了日 : 2014年5月25日
本棚登録日 : 2014年5月25日

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