騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

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  • 新潮社 (2017年2月24日発売)
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村上春樹らしい物語体験。

久しぶりの村上春樹。
村上春樹の小説はおそらく全て読んでいるはず。

でも僕はいわゆるハルキストではない。

1Q84は刊行されてすぐに読んだと記憶している。

かのBook1,2を読んで、あぁ、なんとも村上春樹だったなぁと満足。しかし1年後に刊行されたBook3を読んだら、感想はまったくかわってしまった。

あぁこれまでで最も村上春樹らしい物語だったのにBook3が加えられたことによって最も村上春樹らしくなく、これをもって村上春樹らしさは損なわれてしまったんだと。

まるでベートーベンが交響曲第9番を第3楽章まで作曲し、悩んだ挙句に合唱のある第4楽章を組み入れたように、最もベートーベンらしい交響曲が<合唱付き>のせいで最もベートーベンらしくなくなってしまったように。

そうは言っても僕はハルキストではない。

1Q84book3の体験から抜け出せず、『騎士団長殺し』を手に取るまで時間がかかってしまった。

この『騎士団長殺し』において村上春樹らしいところとそうでないところ。

喪失感と孤独感。

村上春樹の喪失感やら孤独感には主体性、能動性の希薄さも付随しているように思う。しかし、それらは決してただ流されているだけではなく、主人公が自ら、積極的な能動性をもって能動性を希薄にしているとも思える。

P.498『今までそれが自分の道だと思って普通に歩いてきたのに、急にその道が足元からすとんと消えてなくなって、何もない空間を方角もわからないまま、手応えもないまま、ただてくてく進んでいるみたいな、そんな感じだよ』

このありようは完膚なきまでに村上春樹らしい。

村上春樹小説の象徴たるパスタ、ウィスキー、ジャズ、クラシック。今作では題名から分かる通りオペラも多い。

そして、やみくろやジョニーウォーカーさんやリトルピープルを彷彿とさせる存在も健在である。

何度も言うようだけど僕はハルキストではないんだ。そこだけは勘違いして欲しくないな。

らしくないところといえば、奇妙なほどに細かい日本の地名、国道、県名や固有名詞の存在は村上春樹らしくないかもしれない。

そして、幻想、或いは非現実世界への導入もゆっくりかもしれない。

もっとも『ノルウェイの森』以降、匿名性は村上春樹らしさではなくなったかもしれないが。

少なくともこの第一部は村上春樹らしい物語体験だった。

とはいえ、僕はハルキストではないんだ。君が白樺派ではないようにね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年1月1日
読了日 : 2020年6月3日
本棚登録日 : 2019年12月31日

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