生まれつきくっついていた唇に脛の皮膚を移植して手術をしたため唇から毛が生えるようになった寡黙な少年の友達は子供の頃訪れたデパートの屋上にかつていたという象・インディラと壁と壁の間に挟まって出られなくなってしまったと話で聞いた空想上の少女・ミイラだけ。
ある日彼は動かなくなったバスの中で一匹の猫とともにチェスをさして暮らす恐ろしく太った男と出会う。彼をマスターと慕って指導を受けていくうちに少年のチェスの才能はみるみるうちに開花してゆく。
少年はいつしか天才チェスプレイヤーとなって海底チェス倶楽部でテーブルの下に体を押し曲げて入り込み、「盤上の詩人」と名高いロシア生まれの伝説のチェスチャンピオン、アリョーヒンを模したからくり人形「リトルアリョーヒン」を操ってチェスをさすようになり、様々な人と盤上で心を交わす。
小川洋子さんの本を読んで思うことは、「博士の愛した数式」にも言えることですが、ほとんどの人があまり踏み込まないであろう特殊な分野を題材として扱っているのにどうしてこれほどまで人の心を揺さぶれる物語を書けるのかということです。
チェスや数式のことなんて全く詳しくなくてもそのものの「果てしない美しさ」だけはひしひしと伝わってくる。
それらに対する知識がまっさらなだけに、先入観がないからこそそれだけ、こんなに素晴らしいものなんだと感じることができるのかもしれないですね。
読んでみて初めていろいろとわかる小説。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2012年4月10日
- 読了日 : 2012年4月10日
- 本棚登録日 : 2012年4月10日
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