楽園のカンヴァス

著者 :
  • 新潮社 (2012年1月20日発売)
4.23
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本棚登録 : 7401
感想 : 1363
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「アート小説の先駆者」と呼ばれる原田マハさんの代表作。
芸術の知識がないと愉しめないかもしれない…と思い、これまで手を伸ばさずにいたことを後悔するほど、本作で原田さんの作品の魅力に一気に引き込まれた。

物語は、1983年:MoMA(ニューヨーク近代美術館)の学芸員ティム・ブラウンと、新進気鋭のルソー研究者早川織絵が、ルソーの大作『夢』とほぼ同じ構図、同じタッチの作品『夢をみた』の真贋を判定する七日間、1906~1910年:この判定の為の調査資料として与えられたルソーに関する「物語」(劇中劇)、そして2000年:ティムと織絵の再開の3つのパートで構成される。

読了直後で、余韻が冷めやらぬうちに、この作品の魅力を思う存分書き記していきたいと思います。
※ネタばれ注意

まず一つは、時と場所を越えた構成。時間だけを行き来したり、場所が変わったりという作品は多々あるし、時と場所を越える作品ももちろんあるが、本作はその中に、ルソーの「物語」(夢をみた)という劇中劇がもう一つ加わった、奥行きを感じる構成。しかも、このルソーの「物語」が、作品のメインにもなっており、フィクションにもかかわらず、実在を疑うような内容で、短いながらもそのストーリーにぐっと引き込まれる。全部で7章からなるこの作品をティムと織絵が交互に読み進める七日間は、自分も物語に入り込んでいる気分になり、読み進める手が止まらなかった。

続いて、ティムと織絵、そしてバイラーとジュリエットの、職業魂とルソーへの愛も、本作の魅力の一つ。キュレーター、研究者、コレクター、アートコーディネーター。それぞれのプライド、情熱、ルソーへの愛が作品全体に溢れ出して、青春小説を読んでいるかのような熱さを感じる。まさに"PASSION"の塊。
一方で、側近のコンツやクリスティーズのマニング等、『夢をみた』を狙う刺客の存在も大きい。作中で、"美術の世界は欲にまみれている"という言葉も出てきたが、この刺客の存在が物語をよりリアルなものにしていて、ヒーローvs悪役の構図という意味では、欠かせないキャラクターだなと感じた。

さらに、劇中劇となる物語『夢をみた』で描かれる、ルソーやピカソの絵に対する情熱、ルソーからヤドヴィガへの愛、ピカソからルソーへ向けられた期待、祈り、そして最後に贈られたカンヴァス。ルソーは最期、どのカンヴァスに何を描いたのか?「ピカソの上のピカソ」か、「ピカソの上のルソー」か、はたまたそれ以外か…?『夢』と『夢をみた』の真贋は…?。これらの謎に迫る過程は、まさにミステリー作品であり、わくわく感が止まらない。美術に対して造詣がある人にとってはまた意見が変わってくるのかもしれないが、素人の私にとっては、知識がない分、素直に物語に引き込まれたし、ルソーやピカソに対して純粋に「もっと知りたい」という興味を掻き立てられた。

読了後もこれだけ余韻に浸れる作品は久しぶり。
ルソーやピカソを題材にしたアート小説・ミステリー小説であり、
キュレーターや美術館の監視員というお仕事小説であり、
十数年の時を超えた友情・恋愛小説でもある。
一つの小説で何冊も作品を読了したような感覚になる、読み応えのある作品です!
芸術に知識がないからと、読むのを敬遠している方でも、問題なく楽しむことができる作品で、むしろ、そういう方にお勧めです!
次は『リボルバー』読みたいと思います!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(アート)
感想投稿日 : 2023年12月29日
読了日 : 2023年12月29日
本棚登録日 : 2023年12月18日

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