作家の武田百合子が、まだ海外旅行が一般的ではなかった時代に、夫と夫の友人と三人でロシアをめぐる団体旅行に参加したことを描いた旅行記だ。
高山なおみがこの本に影響を受けて旅に出た、という旅行記を読んで、興味をもって手に取った。
確かに面白い。
往時の風俗がわかることもだけれど、物おじせずに世界と相対する武田百合子の愛嬌ある行動や語り口が魅力的だった。
夫に酒を探してきてくれと言われて単身街中を歩き回り、酔っぱらった身振りで酒がほしいことをアピールするくだりや、不機嫌なガイド見習いを快く思わず去り際に日本語で堂々と悪口を伝えて「イヒヒ」と笑うちょっと意地悪なところなど、なんとも可愛げがある。
また、同じ団体旅行に参加している大阪の大金持ちの「銭高老人」がいい味を出していて旅を面白おかしく彩っている。
現代のツアー旅行にいたら完全に迷惑なわがまま老人なんだけれど、この時代のおおらかさというか、敬老精神というか、みんな微妙に迷惑で面倒くさそうなのに老人を愛している感じがいい。
冒険だ、世界を見てやる、という意気込んだ旅行記(=自分記)ではなく、フラットな視点で平易に書かれた内容が、まさに「犬が星見た」というタイトルにふさわしいなと思った。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
好奇心が満たされる
- 感想投稿日 : 2017年5月8日
- 読了日 : 2017年5月8日
- 本棚登録日 : 2017年5月8日
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