2011年の秋頃。突然、本が読めなくなった。
その2~3年前から、体調は良くなかった。
だましだまし仕事を続け、上手く休みながら切り抜けているつもりだった。
外回りにいくといっては、図書館で借りた本を片手に一人旅をしていたこともあった。
だが、その本が読めなくなった。年間で50~100冊の本を読んでいたのに。
あんなに大好きな小説が読めない。
心の病は、脳の病気だという。
ならば、自力でなおすのは無理だ。きちんと治療を受けよう。
心療内科の門を叩くハラが決まった。
例外的に、ベイスターズやプロレスについての本は読めた。
趣味の本は読むのが楽だったからだ。
そんなとき、「1Q84」が文庫化されるニュースを目にした。
小説を読みたい!
図書館では2000人待ちだとか。
ならば、買うしかない。
数年ぶりに書店に足を運び、「BOOK1前編」を手に入れた。
読めた。小説が読めた。実に得難い喜びだった。
青豆と天吾の物語に、魅了された。
その後紆余曲折があり、良き病院、医師、カウンセラー、多くの仲間、そして家族の支えがあり、心の病は寛解した。
本書は、その「1Q84」以来の長編書き下ろし作。
表紙を開き、目次のあの書体を目にしたとき、心の病で苦しむ中、遠くにかすかに見えたあの灯台の光にまた出会えたような感動を覚えた。
物語は、主人公の肖像画家の語りで淡々と進んでいく。
学友の雨田政彦の好意で、ひとり住むことになった狭い谷間の入口近くの山の上の家。
そこで物語は繰り広げられていく。
深くて幅広い知識と教養。
人間の内面を掘り下げようとする探求心。
人と人の出会いがもたらす奇跡のような出来事。
日本が誇る村上春樹の世界、ここに。
この本を読めることこそが、幸せの一つだ。
- 感想投稿日 : 2019年2月14日
- 読了日 : 2019年2月14日
- 本棚登録日 : 2019年2月14日
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