死ねばいいのに

著者 :
  • 講談社 (2010年5月15日発売)
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感想 : 784
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死ねばいいのに
もう、このタイトルのインパクトに負けて手に取ってしまったとしか言いようがない本。正直、ものすごくイメージが悪くて、本当に言葉が悪くて申し訳ないのだが”胸糞が悪くなる”話なのかなあと思っていて、気になりつつ、なかなか手に取れなかった。

読んでみて、、、まあ気持ちの良い話ではなかったけど、そこまで最悪な読み心地でもなかった。そもそもの自分の予想が違っていたから。
この「死ねばいいのに」は、亡くなった『亜佐美』について語っている人達に向けて『無礼な男』がそう感じている、言っている言葉だと思っていたのだ。でも、読んでみると少し違うな、と。
いや、男がそう感じて、相手に向けて放っている言葉ではあるのだけど、それは、私が思っていた、そう言ってやらないと気が済まない位、相手を軽蔑し憎悪して放った言葉と言うよりは、何と言うか、もっと軽い、まるで”提案”のような、「え、じゃあ死んじゃえばいいんんじゃない?」みたいな言葉なのだ。
だからと言って、この言葉をそんな簡単に言葉に出して良いわけがないし、ましてや、もし現実世界にこんなことを『ケンヤ』のように口に出す人がいたら、ドン引きでしかないのだけど、相手に対する憎悪からくる、お前みたいな屑、死ねばいいのに、とは違う、と言う意味で予想とは違ったし、
何より亜佐美が、そこまで自分は不幸で生きているのが辛くて死にたかったとか、周りの人達を恨んでいて、それこそ「死ねばいいのに」と思いながら生きていたのではないことに救われたのだ。

ケンヤに訪ねてこられた人達は、皆不満があって、文句を言い、自分のことは正当化したり建前や言い訳でごまかしたりしていて、読んでいてイライラさせられるし、ケンヤの言動によって、どんどんボロを出し、追い詰められていく様子は、正直ちょっとスカッとするところもあるのだけど、じゃあ、すっかりケンヤ側になって、責められるのかと言うと、そうでもなくて、、、
さすがに、亜佐美の母親や佐々木のような人には共感はないのだけれど、組織や上司や部下に不満を持っていたり、男性に可愛がられている女性社員を妬ましく思ったり、自分なりの正義を持って動いてるつもりなのに伝わらない悔しさだったりは、
誰の心にもあることだと思うから。深刻な時には、自分を冷静に見つめることなんてできないし、周りのせいだと思うし、もうどうにもならない、と思うことだってある。
それなのに、じゃあ「死ねばいい」じゃん、と言われるのは違う。そうじゃないじゃん、と思ってしまう。

最後に、ケンヤが「人間って、みんなダメで、屑で、それでも生きてるもんすよ。あんたの言う通り、生きるために生きてるんすから、死にたくなんかねーよ。」と言っている。けれども、亜佐美は違った、それが怖かった、死ぬのを本当に嫌がらないなんて人じゃない、と。
それを聞いて、最後の最後に、少し救われた思いになった。醜い気持ちを抱いてしまっていても無様でも仕方ないじゃないか。人なんだから。「生きてればいい」。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年4月19日
読了日 : 2021年4月19日
本棚登録日 : 2020年5月9日

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