心配性の兄を持つ「自分」の日常をつらつらと書き記した一冊。
大きい山場はないのだけれど、不思議に頁をめくる手が止まらない。
兄から、兄嫁の節操を試すために一夜の旅をしてくれ、と言われるところが山場といえば山場。
その依頼を断り、ただ出掛けで話を聞くだけという妥協案を出したものの、荒天により結局旅先で兄嫁と宿で一夜を過ごすことになる。
自宅へ帰った後も兄の猜疑は消えず、彼の言動が狂い始める。
その兄に旅を勧め、共に旅をした兄の友人から自分に手紙が届く。そこには心配性どころでなく、深く神経を病んだ兄の姿があった。
近代知識人が急速な社会の変化に惑う姿を、兄という装置を使って描いたのかも。
手紙の中で一人の人物の言動をつぶさに著し、その人間性を浮かび上がらせる手法は、次作の『こころ』に結実する。
父が語った盲目の女性の挿話は本筋とは薄い関わりながら、後味悪く一番胸に残った。
ということは、それをその場で聞いていた兄の精神の歯車を狂わせる一助となった可能性も?
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2020年12月19日
- 読了日 : 2020年12月19日
- 本棚登録日 : 2020年12月19日
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