外套・鼻 (岩波文庫 赤 605-3)

  • 岩波書店 (2006年2月16日発売)
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本棚登録 : 1606
感想 : 166
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ニコライ・ヴァシーリエヴィチ・ゴーゴリの短編小説2編です。どちらの作品もしがない下級役人の悲哀とその役人の真面目さがかえって滑稽さに結びついているという皮肉な面白さがありました。

『外套』は、ひたすら書写に仕事の生きがいを見出している下級役人がはからずも外套を新調することになり、それに付随して起こった悲喜こもごもの出来事を滑稽に描写した作品です。
主人公の下級役人本人はいたって真面目ですが、その真面目さを事細かく描写することで可笑しみを増しています。読者からすれば外套の新調という些細な話ではあるのですが、ゴーゴリの手にかかれば、主人公の困惑から喜び、そして一転絶望と、その顛末に応じた感情が面白可笑しく伝わってきます。最後は意外な展開でしたが、不条理な悲哀を感じさせるものの、このどこかひょうきんな物語の締めくくりとしては、これまたゴーゴリの茶目っ気ぶりが発揮されているといえるでしょう。
自分にとっても哀しみと滑稽さを同時に感じた複雑な作品でありました。(笑)

『鼻』は、ある日、目覚めると鼻が無かった!という奇想天外な話です。しかも、その鼻は近くの床屋の朝食のパンの中に入っていたり、きちんとした身なりで馬車から降りて礼拝に向かうなど、ちょっとどのような光景なのか想像すらできないほどのハチャメチャな場面が真面目な様子で描写されているのが楽しいです。
これまた主人公の下級役人のあくせくぶりが面白可笑しく表現され、実際、切実な問題(?)であったはずなのですが、事態が事態だけに主人公のその滑稽ぶりが何とも可笑しかったです。

2作品ともゴーゴリのひょうきんさが伝わる作品ですが、惨めな人をじっと観察して笑い飛ばすような残酷な面も併せ持っているような気もします。しかし、抑制の利いた文章表現が適度な可笑しみと悲哀ぶりを両立させ、逆に印象深い作品となっています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説など
感想投稿日 : 2014年9月15日
読了日 : 2014年9月14日
本棚登録日 : 2014年6月4日

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