日本人の9割が知らない遺伝の真実 (SB新書)

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  • SBクリエイティブ (2016年12月5日発売)
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感想 : 23
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行動遺伝学について、主に知能と遺伝の関係性について書かれた本である。著者は、心理学系の辞書やテキストも書いているような学者であり、内容は受け入れがたくとも十分信用に足るものである。大学で使用するようなテキストではなく、一般の読者層を対象としているので概ね読みやすく理解するのも難しくはないが、やはり専門的なところも記述されているので、特に数的処理が苦手な人には難しく感じられるだろう。
知能については、「多重知能理論」と「一般知能理論」の二つの理論に大別される。本書は行動遺伝学のエビデンスから一般知能理論の立場をとっている。脳科学者の澤口俊之氏は多重知能理論の立場をとっているので、彼の主張とはまた違った視点で知能について知ることができる。ドッツカード等で有名なドーマン博士や、ドーマン博士の著作の中でも紹介されているスズキメソッドなどの、幼児の早期教育についての妥当性と信頼性に疑問を持ったら、是非本書を読むことをおすすめしたい。

本書の構成であるが、まず知能とは何かから始まり、主に知能の遺伝率について述べ、家庭環境や教育環境の影響力、そしてあるべき教育や社会について述べまとめている。
前半の遺伝率や環境の影響についての内容は、驚きつつも納得できてしまうようなもので、後半の教育や社会のあり方については今まで持ったことのないような視点での指摘に深く考えさせられた。特に、勉強をしなくてもよいというメッセージを出す仕組みがないという指摘には意表を突かれた。子供に、どうして勉強しなくてはいけないのかと尋ねられた時、勉強する行為を正当化するような理由を一生懸命探そうとはすれど、勉強をしなくてもよいとする理由はそもそも考えることすらしないだろう。勉強が遺伝的に不得手な場合、それは子供を追い詰めただ劣等感を抱かせるだけだろう。今の教育界ではそのような子らの逃げ場が全くない。残酷なようだが、遺伝的素質を受け入れた教育や社会作りは必要だ。努力という言葉を用いる人もいるだろうが、自己責任論は人より多くを持てるものの理屈であり、それ以外の人にとっては酷な理屈であることも肝に銘じておきたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年3月30日
読了日 : 2020年3月29日
本棚登録日 : 2020年3月28日

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