【未来をつくるものは争わない。】
前書きを読んだらまず素晴らしかった。無知は私はこの著者が何者かを知らなかった。ペイパルの共同創設者であり、優れたエンジェル投資家であり、その他ビジネス界においてとても業績のある方。
スタートアップ理論、みたいな形で実際の大学での講義をもとに書かれた本。私は特に起業やベンチャー企業への投資をしよう、と思っているわけでも何でもないけれど、誰にでもわかりやすく面白く描いて頂いているのはとてもありがたい。
著者は、逆張りで取り組むことを勧める。まず、競争することを否定する。変化する社会においては、新しいアイデアで新しい市場を作ること、つまり独占は善となりうる。それこそが、スタートアップができること、つまり未来をつくること。ビジネス用語的には差別化、それなくして誰も勝たない、と。
このゼロサムではない考え方、そして長期的に勝つために、目先の競争に加わらないことが大事、といっていたと思う。
さらに公判では、あいまいな楽観主義について問題提起する。そのあいまいさは、たとえば、ポートフォリオを分散することで、どこかで辺りが出ればいい、といったリスク分散の考え方や、リーン・デザインで、少しずつ改善していってやっているうちにベストを作って行こうとする手法や、人々がお金を使ってできることよりも、お金自体に価値を見出している状況、などなど、の今日の主流に一石を投じる。
そして成功者の話にもなり、人生はポートフォリオじゃない、ガチャじゃない、といった論を続ける。重要なのは何をするか。それを覚悟して明確な未来を描いて一つ一つ一つ取り組むか。(私は痛い。)
そう、ビジネス界での勝ち組について書いている、ともいえるのかもしれない。
先日読み終えた、人新世の資本論では、閉鎖的な技術を批判し、オープンな技術、経営の民主化、みたいなことを言っていた。一方この本は、ザ・資本主義でどう勝つか、でもあり、ビジネスとしては新しい希少性を全力で作り出すことをすすめているようにもとれる。もちろん、そのビジネスと技術の活用は人間を豊かにする、という前提がある。(マルクスら19世紀の思想家の明確なビジョンという点については肯定していた。)
やっぱりビジネス界トップ人たちは一流の考え方をするのだろう、とただ思ってしまったりもするけれど、この視点はとても参考になった。ただ成り行きに任せて大きなことを達成する人はいない。それは絶対に忘れてはいけない、あいまいにしてはいけない、と思った。
- 感想投稿日 : 2024年2月29日
- 読了日 : 2024年2月28日
- 本棚登録日 : 2023年9月4日
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