とても面白かったです。しかも数式など全く出てこない中で一般の読者にもわかるように解説されていることがよく伝わりました。上巻ではスケールフリーの概念について解説しつつ、主に生命を題材にそれをあてはめています。微生物からクジラまで、様々な生命活動が「べき関数」に従って動いていること、つまりXとYの関係性を考えた場合、XとYの両方を対数化すると直線のように見える、という特徴があることを様々なデータから示しています。
具体的には2つの挙動を示すのですが、1つは経済学でいうところの「規模に関して収穫逓増」、つまりインプットが倍になると、アウトプットは倍以上になる関係があり、本書ではそれを「超線形スケーリング(つまり傾きが1より大きい)」と呼びます。これは例えば都市で見られるのですが、人口規模が2倍になると、GDPや特許数、犯罪数など様々な指標が2倍以上になる、具体的には15%のボーナスが生まれます(つまり犯罪も2倍以上になる)。
もう1つが「スケールメリット」つまり規模が倍になると、効率性が高まる現象です。本書ではそれを「線形未満のスケーリング(つまり傾きが1より小さい)」と呼びます。たとえば大きさが2倍の動物が必要とする食料とエネルギーは、単純に2倍(100%増)にはならず75%増にしかなりません。つまり25%の効率性アップが起こっていることになるわけです。
上巻の最後からは都市の話が始まりますが、現代社会は人新世ならぬ都市新世だという主張は興味深いです。人類がこれだけ経済発展できた背景には、都市への人口集中があった、それによって「超線形スケーリング」と「線形未満スケーリング」(エネルギー効率など)の恩恵を受けてきたという主張です。ここで思ったのは、デジタル技術の本格的な普及とスマートシティの登場によって、この法則は崩れるのか否か、という疑問です。本書ではそのあたりの議論は行われていませんでしたが、デジタル技術がスケールを増幅する可能性もあるのではないかと感じました。
- 感想投稿日 : 2023年5月6日
- 読了日 : 2021年6月29日
- 本棚登録日 : 2023年5月6日
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