湘南の高校に通う17歳の主人公、櫛森秀一が、母と娘を守るために殺人を犯し、完全犯罪を目論むミステリー小説。
高校時代に仲間内で流行った小説。懐かしくなり十数年振りに本書を手に取ってみたのだが、驚くほどにその鮮烈さは色褪せていなかった。
本書は「倒叙推理小説」と呼ばれるジャンルらしい。物語前半部分で犯人が完全犯罪を計画する形で手の内を明らかにし、実行。それが成功したと思われた時点で後半部分、警察や探偵が真相に近づき犯行を暴く、というものだ。
おそらく私は本書以上に胸に迫る「倒叙推理小説」をまだ知らない。何度読んでも抗えない程の力で心を揺さぶってくる。それは特に、「真相が暴かれてしまうのではないかという胸を焼くような焦燥感」と、「読後に思わず呆然としてしまう程のやるせなさ」である。著者に心を焙られていると言っても過言ではない程、この二つは読者の胸に刻まれる。
この二つの感情の起因となるものはおそらく一つのこと。それは秀一が完全犯罪を、殺人を犯そうとする「理由・動機」である。秀一は決して猟奇的、快楽的な殺人者ではない。秀才で論理的思考に優れているが、それは殺人者の要素とは言えない。彼が「人殺し」を実行したのは愛する家族を守るため、そして彼が「人殺し」に「ならない」ために完全犯罪を計画したのも、その家族のためなのである。愛する者たちを守るための自己犠牲、駄目なことだとわかっていながらも主人公の幸せを願わずにはいられなくなる。それが焦燥感とやるせなさを生むのだ。
主人公の心に宿った瞋りは、ゆっくりと、静かに、際限なく彼の心を燃やし尽くしていく。その「青の炎」はいつしか読む者にも燃え移り、その胸を焦がすのだ。
- 感想投稿日 : 2016年9月23日
- 読了日 : 2016年9月14日
- 本棚登録日 : 2016年9月15日
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