理由 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2004年6月29日発売)
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感想 : 872
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この本を初めて読んだのは大学生のころで、もう10年以上前だった。
当時は何に感想残してたんだったっけなって思って、至ったのはmixiだった。けれど、いくらレビュー振り返っても見つからない。きっと、これだけの情報を詰め込んで、それを言葉にすることから逃げ出していたんだと思う。
今回は逃げ出さずに、頑張ってこの作品に向き合って、自分なりに表現したいと思う。

事件自体はそこまで複雑ではないのだけれど、ドキュメンタリーの手法を用いて、丁寧に、じわりじわりと事件の核心に迫ってゆく。だからやっぱり長い!年末ちょっと仕事でバタバタしていて、「読み進める時間が取れないなぁ…」なんて思っているうちに、年を越した。

人と関わっていると「なんでそう思ったの?」「なんでそういう行動をとったの?」と思うことは結構あって、それがこちらには共感できなくても、相手の話を聞くと、きちんと相手なりの「理由」があることは多い。理解はできなくても、筋は通っている、というような。
じゃあその共感できなさってどこからくるんだろう、と考えた時、その人をその人たらしめる、生い立ちからきている、とわたしは思う。
だからわたしは、人の話を深く聴くときには生い立ちを聴くようにしていて、さらに「当時どう思ったのか」を聴いていく。すると、その人が今そう「思った」、そう「した」、「理由」が見えてくる。

初読当時、この作品がここまで「家族」のことを掘り下げた作品だということに、わたしは気付いていなかった。当時そこに思い至らなかったのは、ドキュメンタリーの手法に圧倒され、ここに登場する様々な家族に、思いを馳せきれなかったからだ。わたしも今ほど自分自身の家族関係に悩んでいなかったし、身の回りの人たちの背景にある家族、というところにまで目を向けきれていなかった。
当時と今とで変わる、母への思い、家族への思い。
八代が、親に愛されていたら。
小糸孝弘が、別の家庭で生まれ育っていたら。
宝井康隆が、もう少し頭の回転が鈍かったら。
タラレバをあげたらキリがない。でもそこに産まれ育ったからこその「その人」でもあるわけで、性格や特性まであげだしたらニワトリか卵かの話になる。
この作品では、家族関係の難しさを、二世代・三世代と遡って、一瞬を切り取ると事件とは何の関係もないような、なんてことないストーリーが差し込まれる。しかし、そのなんてことない出来事の積み重ねが、家族・その人を形成して、その人が事件に関与していくのだ。事件の「理由」は、そのなんてことない出来事の積み重ねの中にこそ、ある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年1月12日
読了日 : 2020年1月9日
本棚登録日 : 2019年11月17日

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