バビロン 3 ―終― (講談社タイガ)

著者 :
  • 講談社 (2017年11月22日発売)
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本棚登録 : 439
感想 : 48
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この章がどうして我々にとって残念なのかと言うと、自殺を大真面目に議論したところで稀代のヴィラネス曲世愛との対決と排除とはなんら関係がないことが、前章までで明らかになっていたからだ。また前章の衝撃的な幕引きを経た以上、次に必ず正崎善の家族が狙われることや、その展開が訪れるまでは単なる茶番か目眩しで実質停滞同然であることも我々は見透かせてしまえたからだ。

だから我々は、おそらく作家がそれなりに真剣に考えて練ったであろう、この章の大部分を占める他国民の思考と議論について、まともに取り合うことなく、活字を然程拾わず、おざなりに受け流して最後まで滑っていけてしまったのだった。(漫画・映像媒体の特色については触れない)ゆえに主要人物の悲劇的な最期にも当然ろくろく没入出来ないし、これで最後の引きが初めから当然視されていた範疇を出ないとなれば、竜頭蛇尾の謗りは免れないだろう。

前章最終場面で曲世愛は初めて例外的な行動をとっており、それは曲世愛が初めて見せた隙でもあったはずなのに、肝心の正崎善がこれを奇貨とし得ないまま、石に齧り付くような地道な捜査に執念深く入れ上げることもなく、ただの大統領の話し相手……はっきりと言えば無策で無能で無価値なままだったことも物語を腰砕けにした。あの弱腰では曲世愛ほどのヴィラネスでなくても嘲笑われてしまう。なんのために渡米したのか。曲世愛におそれをなして家族をおいて逃げたも同然なのにそんな自責も出来ない死に体同然の衰弱には同情するが、「正崎善が復活しない間に世の中では大変なことが起きていました」と省略できてしまう程度の話がこの章である。我々は次回に期待するしかない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノベル
感想投稿日 : 2021年1月17日
読了日 : 2021年1月17日
本棚登録日 : 2021年1月16日

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