それからはス-プのことばかり考えて暮らした (中公文庫 よ 39-1)

著者 :
  • 中央公論新社 (2009年9月25日発売)
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感想 : 806
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ある時飲んだスープが美味しくて、また飲みたいなーと考えてしまう話だと思っていた。
が、そんな受け身の話ではなかった。

安藤さんの三つ目の仕事だからサンドイッチ屋で、だから単純に店名がトロワ。
なかなか美味しいと、人気のある店のようだ。
主人公はそのサンドイッチ屋に勤めることになり、新商品としてスープ作りもまかされる。

仕事というのは誰かのためにすることなのだ。
その「誰か」をできるだけ笑顔の方に近づけることが仕事の正体ではないか。

サンドイッチ屋は、そういう「仕事」だと感じながら働いていることが伝わってきてうらやましい。

都市に暮らす人々は様々な日常を過ごしていて、不安や苦悩やストレスも少しづつ積み重なってくる。
そうした都市生活に疲れた人たちに向けて、
「何かに行き詰ったり弱り果てたときは、とにかく温かいもので腹を充たすべし。」
と伝え、最後にスープを飲むところで終わる話を書きたかった。
という想いが本作品を書くきっかけだったようだ。

物語の舞台となる「月舟町」は、吉田篤弘さんが生まれ育った世田谷の赤堤をモデルにしている。
そして吉田篤弘さんが通った赤堤小学校には、(当時は面識がなかったが)二学年上に岸本佐知子さんもいたことを知り「姉」と慕うようになる。
互いの家の中ほどの十字路の角に教会があり、この教会を食堂に差し替えたのが前作の「つむじ風食堂」だ。
「それからはスープ…」では、その教会を復活させ、さらに「姉」を登場させている。
(そんな裏話など知らずに読んでいたので、「姉」の登場場面を読み直しました)

「月舟町」三部作の最後は、月舟シネマの「犬」が主役らしい。
楽しみに残しておこうかと思っていたが、「月舟町」シリーズ番外編が2冊あることを知ったので早めに読もう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: *吉田篤弘
感想投稿日 : 2023年3月19日
読了日 : 2023年3月19日
本棚登録日 : 2023年1月8日

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