ルリユールおじさん

著者 :
  • 理論社 (2006年9月1日発売)
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本棚登録 : 1159
感想 : 222
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「ルリユール」というのは、このお話に登場する職業。
出版業と製本業の兼業が法的に禁止されていたフランスならではの職業であるらしく、製本から装丁までの工程を、ひとりでこなします。
(著者による後書きより)
今は数少なくなったというその職人の手仕事に魅せられ、パリの街にアパートを借りて工房に通い、手仕事のひとつひとつをスケッチしたという著者の熱意が生んだ作品。
語り手はソフィーという少女です。

大切にしていた植物図鑑が壊れてしまいました。
直してほしくて、ソフィーは街の中を本を抱えて歩きます。
ルリユールと出会うまでの時間。
見開きの片側にソフィー。
もう片側にルリユール。
やがてふたりは出会います。そこはルリユールの工房。
思わず微笑みがもれるソフィーの言動と、ルリユールの動き。

最後は「魔法の手」で、ソフィーの大事な図鑑を甦らせるのですが、そこまでの過程が、この本の醍醐味でしょう。
代々続くルリユールだったという老人は、ソフィーの図鑑を直す間、父の言葉を思い出します。
その間描かれる、節くれ立った職人の手。その美しさ。
 […名をのこさなくてもいい。ぼうず、いい手をもて。]
そう言う父の手を、魔法の手のようだと思いながら眺めていた少年時代。
老人は自問します。
「わたしも魔法の手をもてただろうか」

翌朝見に来たソフィーの目に、美しく装丁された図鑑が飛び込みます。
これが、読者も思わず声をあげてしまうような出来映え。
嬉しくて嬉しくて、しっかりと抱きかかえるソフィーの喜びようがたまらなく可愛いですよ。
そして、最後の1ページでは、目の奥がじわっと熱くなります。
ひたすら良い仕事を成し遂げようとするルリユールとの出会いが、少女のその後を変えていったのです。

いせひでこさんの絵も美しく、さらっと描かれた水彩画は、どのページを開いても美しい絵はがきのよう。
ソフィーの青い服。その表情。街角の樹木。大きなアカシアの木。
そして、何よりもルリユールの手!
大人向けの本としても、じゅうぶんに名作と言えるでしょう。

「本は時代を超えてそのいのちが何度でもよみがえるものだ」と、著者の言葉がありますが、それ以上の物をたくさん含んでいる作品です。
良い仕事をするとはどういうことだろう。
そんなことを思いながら、自分の手をしみじみと眺めた私です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本にまつわる本
感想投稿日 : 2010年2月19日
読了日 : 2007年12月14日
本棚登録日 : 2007年12月14日

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