サウス・バウンド

著者 :
  • 角川書店 (2005年6月30日発売)
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感想 : 604
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ああ、何で今まで読んでなかったんだろ。面白かったー。良かったー。「夏の100冊」のおかげです。

思えば、「家族小説」っていうのを毛嫌いしてた頃があって、とにかくそのテの惹句がついてるとパスしてたのだった。大震災以降あからさまに連呼されているけれど、家族のつながりとか絆とか、そういう言葉が無反省に使われていると、拒否反応が起こるんである。

ずいぶん前だが、田辺聖子先生が「大家族の良さとか、したり顔で口にするおっさんを見ると、とびかかって首を絞めてやりたくなる」と書かれていて、そうそう!と拍手したことがある。幼い頃や、カモカのおっちゃんと結婚してからの、慈愛に満ちた大家族の暮らしを心から愛おしんで書いている田辺先生にして、この発言。家族は(とりわけ大家族は)大なり小なり、誰かが我慢を強いられている上に成り立つものだと思う。そこをちゃんと見ないで、家族を描くのは欺瞞だ。

この小説で、語り手の小学生二郎の父親は、かなり極端に「自分を犠牲にしない人」だ。第一部では、いくらなんでも…とウンザリしてくるくらいに。二郎もウンザリしているのだが、父を怖がってはいない。父親が、自分の意に染まない二郎の行動にも、最後には「見て見ぬふりをして」認めてくれることを知っているからだ。子どもに対して、自分の考え方を貫くことも、また、最終的にグレーゾーンで歩み寄ることも、どっちもなかなか難しいものだけど。

この二郎がしばしば、自分が子どもで無力であることを悔しく思う場面があるが、これはかつて子どもだった人はみんな身につまされるのではないだろうか。子どもってほんとに「自由」がない。誰かにご飯を作って(あるいは買って)もらわなくちゃならないし、夜になったら家に帰らなくちゃいけない。家出したって、外を普通に歩けるのは午後三時から八時くらいまでの間だ。ああ、もう早く大人になりたい!と思ったことのない人っているんだろうか。(イマドキの子どものことはわからないけど)

でもね、二郎君、あなたが先生たちを見てて気づいたように、大人だって大して自由じゃない(あなたのお父さんは除く)。そして何より、その不自由さの中に「自由」の芽は大事に育まれている。そう言ってあげたくなる。二郎君はとっくに知っているだろうけど。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説
感想投稿日 : 2014年9月4日
読了日 : 2014年9月4日
本棚登録日 : 2014年9月4日

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