嫌な女 (光文社文庫 か 55-1)

著者 :
  • 光文社 (2013年5月14日発売)
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本棚登録 : 1977
感想 : 281
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NHK-BSのドラマになった時から少し気になっていたのだけれど、ここに来て手にする。映画化に合わせて吉田羊と木村佳乃が表紙のカバーになってしまい、手にしてレジに行くのがためらわれたが、仕方がない。
弁護士の徹子と、その遠い親戚の夏子。
男好きがして男を手玉に取る術に長ける夏子が何年かおきにトラブルを発生し、その都度、徹子がお尻を拭くことになる。
24歳から71歳まで描かれる長い年月の流れの中で、二人の女性の変わらない本質と変わっていく生き様がつぶさに描かれる。
自由奔放に年老いてまで可愛い女として生き続ける夏子と人生に虚しさを抱えながらも弁護士としてのキャリアを積んでいく徹子。
後半は、特に、夏子が何をしでかしたかということよりも、そこに巻き込まれた人々と徹子とのやり取りを通じ、泣き笑いが出るような達観が示される。

生きるということについて、、、
“多くの人が満ち足りない想いを抱えているって、知らなかったのよ”
“自分で気付くしかないのだ。願った通りの人生を送れていなくても、うまくいかないことが多くても、その現実と上手く折り合いをつけていくしかないということは”
“受け入れるのは、悪いことではないのかも”
“丸ごと受け止めておしまいなさい。気に入らないことも、哀しいことも。そうすれば、きっと生き易くなるわよ”
“「幸せか」と尋ねられて、「そう言えば、そうだ」と気付くくらいがちょうどいいようだった”
“苦しくても、虚しくても、明日を迎えて生きる。そういうもんなんだとわかったら、呼吸をするのが楽になったの”

老いるということについて、、、
“もう充分生きたって思える人なんて、いないの”
“私もちゃんと人生の閉じ方とやらを考えなくてはいけない年齢だ。どうやって閉じたらいいのだろう。したいことが浮かばず、私は愕然とする。”
“ずっと変わらずにいることは、出来ませんよね。そうわかっていても、願ってしまいますね”

仕事についても、、、
“弁護士の仕事って、やりがいを求めてはいけない領域のものだと思ってる。…感謝されることを目的にしてはいけないし、期待してはいけないと思ってる。ただ、ベストを尽くすだけ”

人生における楽しかったランキングというのを考える時、私には何が楽しかったのだろう?
妻のこと、子供のこと、親兄弟のこと、仕事のこと、趣味のこと、小さかった頃のこと、学生時代のこと、会社に入ってからのこと、、、何を楽しみに今まで生きてきたのだろうと、今更ながらに戸惑ってしまう。
宝くじで100万円当たったら、何に使うだろう。今時100万円では夢も語れないように思うけど、だったら幾らなら夢が語れるのか?
つまらない人生、平凡な人生、だけどもかけがえのない人生…。
生きること、働くことに対する悶々とした思いに対し、確かな励ましを伝えてくれる物語であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2016年読んだ本
感想投稿日 : 2016年6月5日
読了日 : 2016年6月4日
本棚登録日 : 2016年6月5日

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