頭に障害をもって生まれた子どもの父となった27歳の鳥(バード)。彼の親としての葛藤、現実逃避、そして自己再生の軌跡を描いた大江健三郎初期小説。
生まれた子どもの頭に障害があったショックとその受け入れ難い現実を前に主人公は恐怖する。胎児の死を願い、自己逃避のため女友達・火見子とひたすらセックスに耽り、背徳を犯し続け、アフリカ旅行というここでないどこかへの逃亡を夢見る。
バードの内面が恥辱と絶望の間を揺れ動く。その揺らぎが赤裸々に描かれていた。しかし、どうも村上春樹のようなご都合主義的な火見子という女性造形と、逃避による性の愉楽から、胎児を引き受け父親になる決意と自覚の訪れが唐突過ぎて、あまり作品に入り込めなかった。
著者自身、知的障害をもった息子がいる。誤解を怖れずにいえば、障害をもって生まれた息子との日々の共生と生の営みが、そのまま大江文学の核ないし創作への動機となっている感はある。もちろん本作は私小説ではないけれど、大江文学の出発点となった小説ではあるだろう。
文章について一言。この小説は大江作品にしては読みやすい文章だった。従来よく言われる大江健三郎独特の文章(主語がやたら長くて述語の位置が定かでない読み難い解かりにくい文章)ではないので、大江初心者には読みやすいかもしれない。
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2016年12月27日
- 本棚登録日 : 2016年12月6日
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