村上春樹のどの作品よりも何度も読み返した。
ヨーロッパ旅行記、というイメージと異なり、全体の雰囲気は暗い。純文学作家として順調にキャリアを伸ばしながら、連載や短編の執筆に追われ、40歳になる前に変わらなければならないという強迫観念めいた衝動で経済的には不安を抱えてイタリアにたどり着くところから始まるこの話だが、最初から最後まで、自分が小説を書けば書くほど人に嫌われるのではないか、という不安に覆われている。ギリシアのシーズンオフの別荘や、シシリーの埃まみれの街並みやローマの地下室、ロンドンのフラットでの一人暮らし。美味しいものを食べ、誰にも煩わされずに生活しているはずなのに、悲壮感が拭えない。大ベストセラーをものしたのに日本を出ざるを得なくなったのはかわいそうと言いたくなる。それでなんとなく40を迎えたが、大したことも起こらないまま、旅の終わりと同時に物語も終わる。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2024年3月24日
- 読了日 : 2024年3月15日
- 本棚登録日 : 2024年3月15日
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