すでに起こった未来: 変化を読む眼

  • ダイヤモンド社 (1994年11月25日発売)
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本書は94年の本であるが、既出の論文等をまとめたものである。ドラッカー晩年四部作と比べると、寄せ集め感がぬぐえず、本書のタイトルとの一体感が感じられない。最初から順番に読もうと思ったが、途中から不要と思った章は読み飛ばした(○×でつけた)。


目次
1部 アメリカの経験
1章 アメリカの特性は政治にあり(1953)○

2部 社会における経済学
2章 アメリカ政治の経済的基盤(1968)○
3章 利益の幻想(1982)○
4章 シュンペーターとケインズ(1986)○
5章 ケインズー魔法のシステムとしての経済学(1946)○

3部 マネジメント社会的機能
6章 マネジメントの役割(1969)○

4部 社会的機関としての企業
7章 企業倫理とは何か(1982)×

5部 仕事・道具・社会
8章 技術と科学(1961)○
9章 古代の技術改革に学ぶ(1965)○

6部 情報社会
10章 情報とコミュニケーション(1974)○

7部 社会および文明としての日本
11章 日本画に見る日本(1981)○

8部 社会を超えて
12章 もう一人のキルケゴール(1949)×

終章 ある社会生態学者の回想(本書のための書き下ろし 1992)○



抜き出し
1章 アメリカの特性は政治にあり
p14 アメリカという国は、移民に対し、ただ一つの政治的信条を押しつけることによってのみ成り立っている。
p15 世俗的政治と宗教的社会の共生。宗教団体がコミュニティ(=世俗)の重要な機能を堂々と引き受けている。
p17 アメリカの政党の目的は主義を実現することではない。民主党・共和党の両党が、常に中庸を得た行動をする。
p19 政府による上からの集団主義ではなく、下からの自発的な行為という集団主義。
p21 アメリカを特徴づけるものは、民間の自発的な集団を通じた競争と協力の共生である。

2章 アメリカ政治の経済的基盤
p35 経済は、アメリカの政治決定課程において合意形成の推進力となってきている。
p35 アメリカでは、関税・通貨・自由地(奴隷制禁止地域)などの経済的問題が、国を分裂させかねないイデオロギーの対立を中和するために使われてきた。
p35 歴史上、アメリカは政治問題を経済化することによって亀裂を避けてきた。

p44 アメリカでは、経済的利益を国家統一の効果的な動因とする考えが受け入れられた。
p45 移民自身は、自治の経験がなかったし、政治活動の経験さえなかった。
p45 あまりに多様な大衆が、一つの基本的な価値観にもとづいて、一つの政府のもとで、一夜にして、一つの国家を形成しなければならなかった。
p45 ラテン・アメリカでは、異なる宗教や文化、異なる政治的価値観や信念、異なるイデオロギーの全てが、国家に対して不協和音となっていた。

3章 利益の幻想
p57 利益に関する最も基本的な事実は、「そのようなものは存在しない」ということだからである。存在するのは、コストだけなのである。


8章 技術と科学
p174 科学は哲学の一分野であり、科学を利用することは、科学の乱用であり、科学の堕落だった。
p174 技術は、利用することに焦点を合わせていた。その目的は人間能力の向上にあった。
p174 科学は最も普遍的なものを対象とし、技術は最も具体的なものを対象とした。科学と技術の両者に類似があったとしても、それはまったくの偶然だった。
p175 1720年から1770年までの50年間のどこかで、技術に対する姿勢が大きく変わったにちがいない。
p177 17世紀〜18世紀@イギリスにて
農業は、労働力の半減と生産量の倍増を同時に実現した。その結果、農村から都市への労働力の大量移動が可能となり、食糧の生産から消費への移行が可能となり、産業革命が可能となった。
p178 1776年 アメリカの独立宣言、アダム・スミスの国富論、ワットの実用蒸気機関の発明、ベルグアカデミー(鉱山大学)の設立。

p184 技術革命が起こる前までは、緩慢な進歩の歴史があった。そしてあるとき突然、技術の急激な伝播がはじまった。
p184 今日に至るも、一般史家と技術史家は、突然の技術革命に大きな関心を寄せていない。
p185 技術は、行動の世界と知識の世界を結びつけるもの、人類の歴史とその知識の歴史を結びつけるものとなっている。
p185 かつては端に散らばっていたにすぎない技術が、いかにして中心に位置づけられるようになったのかという問題こそ、今日、解明され、完全に研究され、報告されなければならない。


9章 古代の技術革命に学ぶ
p188 今日の社会制度や政治制度は、灌漑文明の時代に生み出されて確立されたものである。
 (一) 灌漑都市は、初めて政府を独立の恒久的な機関として生み出した。
 (二) 社会的な階層が初めて生まれた。農民・兵士・聖職者。
 (三) 灌漑都市は、初めて知識なるものを生み、それを体系化し、制度化した。
 (四) 灌漑都市は、個人なるものをつくり出した。

p194 技術から学べること
 (一) 技術の大きな変化は、社会と政治のイノベーションを必要不可欠とする。
 (二) 技術の大きな変化は、社会と政治のイノベーションをもたらす。
 (三) 新しい客観的現実が決定するものは、方程式における重要なパラメータだけである。


10章 情報とコミュニケーション
p213 コミュニケーションは、知覚することである。
 「無人の森で木が倒れたとき、音は存在するや」
 コミュニケーションをするのは受け手である。
 知覚することは論理ではない。
 人間は知覚能力の範囲内でしか知覚できない。

p218 コミュニケーションは、期待することである。
 人間は知覚したいと思うものを知覚する。期待されていないものは、そもそも知覚さえされない。

p219 コミュニケーションは、関与することである。
 コミュニケーションは常に宣伝である。送り手は常にあることを理解させたいと考える。

p222 コミュニケーションと情報は、まったくの別のものである。
 (一)コミュニケーションは知覚することである。情報は論理である。情報は形式的であり、意味を持たない。
 (二)効果的な要件が全く正反対である。
   コミュニケーションにおいて知覚されるのは全体像である。
   情報は、データが少ないほど、良質になる。
 (三)情報はコミュニケーションを前提にする。
   オーストリア陸軍のアルメー・ドイチュ(軍用ドイツ語)。オーストリア帝国時代、多言語軍の共通言語として200の単語からなる特殊言語が開発された。この情報システムは最後まで機能した。
 (四)コミュニケーションは、定量化できなければできないほど、よく機能する。


11章 日本画に見る日本
p243 家社会と個人主義
p248 日本文化の二極性
 簡素な無の空間⇔装飾的で色彩豊かな構図
  装飾的:二条城、日光東照宮  簡素:桂離宮、将軍の暮らし
 女性:従順さ⇔実権と財布を握る
 子供:甘やかす⇔学校での規律
 組織:専制的であり民主的である。
p252 日本画の風景
p255 日本人の美意識
 なぜ、中国人は日本画を見てくつろぐことができないのか
 日本画は空間が支配する。空間が絵の構図を決めている。
 西洋画は幾何学的、中国語は代数学的、日本画は位相的。
p261 十分と八十年
p265 日本の伝統における知覚能力
 西洋の制度や製品の本質と形態を把握し、それらを再構成する能力。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年11月5日
読了日 : 2009年8月30日
本棚登録日 : 2018年11月5日

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